●世の中は割り切れない

遠藤:監督は最初に善と悪についてお話しされましたが、父もよくそのことを話してくれました。善の中には悪が、悪の中には善が潜んでいる。善と悪は簡単に分けることができないものであって、その中でいかに格闘していくかが人生なのだ、と。監督の話はまるで父の話を聞いているようで、父が監督に映画化を託した理由がなんとなくわかったような気がします。

スコセッシ:私が育ってきたのは、善良な人たちが一生懸命働く社会でした。同時に悪もはびこっていましたが、悪いことをしていても本当の悪人とは言えない人もいた。私は、宗教的な生活をしながら暴力的な世界でどうやって暮らしているのか、不思議でしかたがなかった。私の映画で取り上げるのは、ギャングものでもビジネスものでも、いつもそういうことです。

遠藤:いまの日本は善きものと悪しきものに二分されていて、それが記号的に決められていることも多い。世界的にもそういう風潮にある中、映画を通して、世の中はそうは割り切れないことをみせてほしい。観客としてすごく期待しています。
スコセッシ:まだ最終調整中ですが、興味深いものになっていると思います。信仰の本質、より閉鎖的でより国家主義になっているこの世の中に対して疑義を唱えるような、深いテーマを考えるきっかけになれば。人によっては慰めになればうれしい。文化の違いにも思いをはせてほしいですし、互いに尊敬する気持ちが必要ということに気づいてほしいですね。あとは……楽しんでください(笑)。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2016年11月14日号