──作家の曽野綾子さんの著書『人間にとって成熟とは何か』では、野田さんについて、「自分の息子が、こんな高額医療を、国民の負担において受けさせてもらっていることに対する、一抹の申し訳なさ、か、感謝が全くない」と書かれていますね。

 社会には「障害者は役立たずで国に負荷をかけている」と考える人がいますが、息子が今後どう社会に貢献するかわからないじゃないですか。少なくとも、今年改正された障害者総合支援法に「医療的ケア児」の言葉が入ったのは、息子の存在が大きかった。

●息子のおかげでプラス

──植松容疑者も「障害者は生きていてもしょうがない」と話していました。

 周囲の人がその人がいることで潜在能力が引き出されて、世のために力を発揮する例も多い。例えば、ナミねぇのニックネームで知られる竹中ナミさんは、重度の心身障害がある娘がいたから起業して、誰もが生き生きと働ける社会実現のために活動を始めて、政府の会議の委員もされている。彼女は障害を持った子の親となったことで、社会へとても貢献していますよ。

 私も息子のおかげでプラスになった。息子が生まれてきてくれたことで、自分に一番欠けていた政治家の資質を手に入れることができた。これまで弱者のための政治というのを頭でわかっていても、理解できていなかった。それが、この子によってストンとわかるようになった。差別は、こういう嫌な思いをするんだとかね。当事者感覚で受け止められるようになった。

 ただ、一般的には、「障害児を産んだ母親は、家で24時間世話をしなきゃいけない」的な圧力があって、働くこともできずに貧困になっちゃう人が多い。そこは改善していきたい。

●休息も許されない親

──今回の事件では被害者の名前も公表されませんでした。

 一部の遺族のお気持ちもわかるけど、私はやっぱり名前を出してほしかった。被害者が生きてきた何十年という人生がないことになってしまう。東日本大震災の犠牲者は未来永劫記憶に残るけど、今回の被害者は残らない。思い出すことで事件を検証できることもあるのに。

──出生前診断が広がり、染色体異常がわかれば中絶を選ぶ人が増えています。

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