難病の治療薬や生活習慣病の改善薬など、実は日本人が開発した薬は多い。研究者の思いと執念が新しい薬の誕生を切り開いた。
世界で真の新薬を創製できる国は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スイス、そして日本の6カ国しかないとされる。日本発で、あるいは日本人が関わって世界に認められた薬が実はいくつもあることは、意外と知られていない。
2015年のノーベル医学生理学賞は、薬を開発した日本人に贈られた。北里大学特別栄誉教授の大村智さんだ。
「微生物が作っていてくれたんだけども、それを見つけてよかったなと思った」
大村さんは、アフリカを訪ねた時の思い出を噛みしめるように語った。自ら発見した薬が、現地の生活を一変させたことを実感したのだ。
大村さんらが静岡県・川奈のゴルフ場近くの土壌から見つけた新種の放線菌が生産する物質エバーメクチンは、米メルク社が、風土病であるオンコセルカ症(河川盲目症)の特効薬イベルメクチンとして開発。年間3億人以上が服用し、失明の危機から救われている。
●薬の種は微生物が生む
エバーメクチンは同社で改良され、まず1981年に家畜の抗寄生虫薬として発売された。83年には動物薬の売り上げトップに。世界中で食料と皮革の増産につながり、犬のフィラリア症などの予防薬としてペットにも多用された。
大村さんらのグループでは、微生物が作り出す500種近い物質を発見、うち26の化合物が医薬品や農薬、研究用の試薬に使われている。イベルメクチンは無償供与されたが、それ以外から得た特許料で、病院設立や北里研究所の再建を成し遂げた。
「微生物は何万年も前から物質を作っている。そこには病気を治すものもある」
と、大村さんが言う通り、土壌を採取して微生物を培養し、新規物質を探すのは、創薬の“王道”でもある。最初の抗生物質ペニシリンは青カビから、結核の特効薬となったストレプトマイシンは放線菌から発見され、発見者のフレミングとワクスマンもノーベル賞を受賞している。