神奈川県で暮らす主婦のA子さん(43)は、8月のお盆を過ぎるころから夫と家族会議を始める。議題は「今年のハロウィーンの仮装について」。
以前は簡単なフェースペインティングを楽しむ程度だったが、3年前、子どもに本気のゾンビメイクをしてパーティーに登場したらめちゃくちゃ受けた。年々エスカレートして市販のハロウィーングッズでは物足りなくなり、たどり着いたのは特殊メイクのショップ。自信作は、首のないゾンビが自分の生首を抱えるという、もはや仮装を超越した「ホラー作品」だ。
「家族でアイデアを出し合い手作りするのが楽しい。今年は小6の長男から『仮装は恥ずかしい』と引退宣言され寂しいけど、親子でコミュニケーションが取れる機会なので、めげずにやり続けます」(A子さん)
●5年で市場規模は倍増
商店街では仮装した子どもがお菓子をもらいに回り、六本木、渋谷はコスプレした若者であふれる──。いつからハロウィーンは日本で市民権を得たのか。日本記念日協会のホームページによれば、2011年に560億円だったハロウィーンの市場規模が今年は推計で約1345億円と、この5年で倍以上に。なんと、約1340億円のバレンタインデーさえも超えた。
インターネットの楽天市場でも昨年のハロウィーン関連商品の流通総額は、11年の7倍超。今年は、ポケモンGOの影響でピカチュウが人気で、男性は「こち亀」連載終了から「警察コスプレ」、女性と子どもはドレスのスカートをふんわりさせる「パニエ」が検索ワードで急上昇。リオ五輪閉会式で安倍首相が見せた、ビミョーなマリオコスプレのおかげか、マリオグッズもよく出るとか。マジか。
瞬く間に“国民的行事”の座に納まったハロウィーン。仕掛け人は一体だれなのか。
「“黒幕”は『パリピ』と呼ばれる若い人たちです」
そう解説するのは、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さん。パリピ=パーリーピーポー=パーティーピープル。原田さんの著書『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(新潮新書)によると、「パーティーやクラブイベントに代表されるような、賑やかでキラキラした集まりに参加して大騒ぎするのが好きな若者たち」で、「自分たちが飛びついた新しいモノやコトを、他の若者たちに拡散・伝播できる」能力を持つ。パリピは07、08年ごろから仮装してクラブや街に繰り出し、その様子をSNSなどで発信。「ハロウィーン=コスプレで楽しく騒ぐイベント」として広め、定着させた。
「一見、『海外離れ』しているような最近の若者たちですが、SNSで直接情報が入るようになり、海外、特に米国の影響を非常に強く受けている。クリスマス同様、米国で毎年盛り上がっているハロウィーンは、パリピにとって取り入れやすいイベントだったのでしょう」