「ごみを捨てる」は、「家じゅうのごみを集めて大きな袋にまとめる」「集めた後のごみ箱に新しいごみ袋をセットする」「袋にまとめたごみをごみ捨て場に運ぶ」などの作業で構成されています。家事に含まれる「見えない作業」を全部、書き出していくのです。

 ここからはプロジェクトマネジメントの話になりますが、可視化されたタスクのリストがあれば、夫婦のどちらがどれほどの家事を負担しているのかが分かる。やっているつもりだったけど偏っていたとか、実はほぼ同じくらいの分担だったとか。お互いの「感覚」だけで話し合うとケンカになりますが、可視化することができれば、それを根拠に議論ができます。

●誰かの思考が隠れてる

 この方法は、仕事にも役立ちます。チームのメンバーそれぞれが担当している仕事、終わった仕事を書き出せば、各自の処理能力も把握できる。仕事配分を見直すことで、チームの生産性を上げることもできます。

 最終的に重要になってくるのは、「人と仕事を切り離す」こと。

「これはAさん1人にしかできない」という作業のことをジョークで「トラックナンバー1」と呼びます。数字が「1」だった場合、Aさんがトラックにひかれると仕事が立ちゆかなくなる。トラックナンバーの数が少ないほどリスクは高くなります。家事も仕事も目指すべきトラックナンバーは「2以上」です。

 プログラミングの話に戻りましょう。現代の生活は、パソコンやスマートフォンだけでなく、自動改札機にもトイレの温水洗浄便座にもコンピューターが隠れています。それらは誰かが「課題を解決したい」「何かやりたい」という気持ちと思考で作ったもの。そんなふうに、より能動的に、組織的な形で世界をとらえる視点を持つことができる、それがプログラミングから得られる力の一つだと思います。

 プログラミングで得られる考え方を応用すれば、家事の効率を高めることもできます。理屈では「部屋の片づけ」も解決できそうな気がするのですが、私は片づけが苦手です。いつも指示を出すだけで、実行してくれるのはコンピューターだからでしょうか。(編集部・深澤友紀)

AERA 2016年10月31日号