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アスリートファースト、レガシーとしての価値。五輪会場選定における重要な指標だが、「海の森水上競技場」をめぐる騒動では、そのどちらも見えてこない。
東京五輪・パラリンピックのボート・カヌー会場となるはずだった「海の森水上競技場」に“大波”が押し寄せている。
9月末、東京都の小池百合子知事が選んだ都の調査チームは、五輪の3会場について過大な事業費を指摘し、建設見直しを提言した。なかでも、当初69億円と見込んだ海の森の整備費は、2014年秋に1038億円へと激増。その後491億円まで圧縮したが、7倍以上の建設費に会場変更も検討されている。
●1レーンだと勝てない
候補の筆頭は、宮城県登米市の「長沼ボート場」。既存のボートコースを利用するので整備費は大幅に圧縮、受け入れ先の宮城県の村井嘉浩知事も乗り気だ。12日には小池知事と会談。東日本大震災の仮設住宅を選手村に再利用し、五輪後も高校総体のボート会場として活用する構想をアピールした。
「非常にわかりやすいメッセージ。もったいない精神につながる」
と小池知事も高く評価。15日の現地視察などを踏まえて判断する。都政改革本部の担当者は現状をこう語る。
「復興五輪というコンセプトに合致するのは長沼だけ。彩湖(埼玉)、長良川(岐阜)はもう検討候補には入っていない」
だが、現役選手から懸念の声も上がる。ボート競技の第一人者で五輪5大会に出場した武田大作選手(42)はこう言う。
「海の森、長沼ともに環境が悪い。正直、どちらも避けたい」
武田選手によると、海の森は沿岸部特有の風と波による「レーン格差」が心配だという。コースが東西に走り、夏場に多い南風が横風となる。スタート地点は西側なので、護岸からの波の打ち返しが強い1レーンは、風と波の影響を強く受ける。半面、8レーン側は穏やかで競技に有利だ。
「1レーンに入ったら勝てないとなれば、4年間の練習は何だったんだと。現地を見る限り、海の森はレーン格差が大きくなりすぎるのです」(武田選手)
長沼の問題は、東京から約350キロ離れる環境ゆえ、選手村が「分村」され、チームジャパンとしての選手の一体感が失われてしまうこと。移動の時間や費用もかかれば、選手が敬遠する。五輪の「レガシー」どころの話ではない、と指摘する。