映画「氷の花火 山口小夜子」のワンシーン。10月13~16日に、彩の国シネマスタジオ(埼玉県)で上映される(セルジュ・ルタンス提供)
映画「氷の花火 山口小夜子」のワンシーン。10月13~16日に、彩の国シネマスタジオ(埼玉県)で上映される(セルジュ・ルタンス提供)
監督の松本貴子さん。「若い世代には小夜子さんのようにどこかに飛び込んで自分を表現することに挑戦してほしいですね。この映画がその後押しになれば」(撮影/山崎エリナ)
監督の松本貴子さん。「若い世代には小夜子さんのようにどこかに飛び込んで自分を表現することに挑戦してほしいですね。この映画がその後押しになれば」(撮影/山崎エリナ)

 日本人らしさを武器に、日本人初のパリコレモデルとなった故・山口小夜子。その生涯を知ると、美とは何か、挑戦するとは何かが見えてくる。

「東洋の神秘」「かぐや姫」「ミューズ」「大人の顔をした少女」……。世界はモデル・山口小夜子(故人)の美しさをこう表現した。1970~80年代、日本人の多くが欧米文化に憧れ、広告では海外のモデルばかりがもてはやされた時代に、黒髪のおかっぱ、切れ長の目、深紅の唇という日本人らしさを武器に、世界のランウェーに挑んだ女性だ。

●憂い、恍惚、挑発…

 そんな彼女の生涯を、過去の映像と山本寛斎ら関係者の証言で辿ったのが、ドキュメンタリー映画「氷の花火 山口小夜子」だ。文化庁映画賞文化記録映画部門大賞を受賞。9月にカナダで開催された第40回モントリオール世界映画祭・ドキュメンタリー部門に出品された。監督は山口と親交が深かった松本貴子さん(56)だ。実は今年のモントリオール映画祭は、開催直前に資金不足が発覚。この映画も上映中止になりかけていたが、松本監督の猛烈な交渉の末、なんとか上映にこぎつけたという。

「現地の人から『美意識を磨きたい』という感想を聞きました。確かに小夜子さんのパリコレや資生堂のCMの映像は美しくて、刺激を受けます。この映画をつくったのは、小夜子さんの映像、写真などをアーカイブ的に残しておきたいという気持ちもあったんです」

 日本の上映館に足を運ぶと、16回目というリピーターの中年男性、山口の髪形やメイクを真似した「さよコス」の女性、セーラー服姿の女子高生など、幅広い支持を集めているのがよく分かる。モデル事務所の社長が自社のモデルたちに観覧させることも多いそうだ。インスタグラムにつく「いいね!」の数ではなく「表現することの喜び」を山口から学んでほしいという。

「もちろん他者からの評価も大切ですけど、小夜子さんは自分が心から良いと思ったものを表現することに勝負をかけていました。そのためには顔や身体だけでなく心も綺麗でいたいという理想があって、自分を厳しく律していましたね。『美しいことは苦しいこと』とつぶやいたのが忘れられません」(松本さん)

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