「社長業」へのコミットを決意し、循環器内科医としての道を究めることは諦めたが、医師を辞めたわけではない。上場後も、週1回の外来勤務を続けている。現場感覚を持って医師のニーズをつかむことはもちろん、医療業界を変革していくためには「医療の中の人」であることに意味があるからだ。

「最終的に“患者を救う”のが会社の理念。全国の医師たちをつなぎ、その“集合知”で医療現場を変えたい」

●CGで治療を手助け

 11年に東京大学医学部を卒業した瀬尾拡史氏(31)は、CGクリエーターの顔も持つ。医学部在学中にデジタルハリウッドでCGも学び、臨床研修中にサイアメントという会社を設立した。

 もともと中学時代にテレビ番組で見たCGに感化され、面白くてためになる科学分野のCG制作で身を立てることを決めていた。医学部に進んだのもその延長線上にある。

「専門的な医学をちゃんと学びたかった」

 2年間の研修医生活を終えた後、診療からはすっぱり手を引いたが、これまでの医学知識や人脈をフル活用してCG制作に挑む。例えば、12年から開発に取り組む気管支鏡検査のシミュレーション用の3次元CGは、医師が事前に見ることで、手術や検査の時間を短縮し、患者の負担を減らすこともできる。

「優秀な医師は世の中に大勢いるので、患者さんの治療は任せればいい。僕は単にコンテンツを作るだけでなく、治療や診断に役立つことを目指す」

 医学部は、究極の「職業訓練校」でもある。しかし、医学部を卒業することは、医師以外の道を閉ざすことではなく、むしろ地平線を広げる可能性を秘めていることを、出会ったスーパー医師たちは教えてくれたような気がする。(ジャーナリスト・塚崎朝子)

AERA 2016年10月3日号