●自分にダメ出しなし

──四季をこまやかに描く「オチビサン」からは、季節のにおいが感じられます。

 東京は冷暖房が利いて、気密性も高いから、意外と季節の空気のかおりみたいなものが感じられません。鎌倉だと秋になると秋のかおりがします。植物から発せられるかぐわしさみたいなものが、知らず知らずに自分の中に成分として入り、作品として出ていく感じはありますね。

──ヒット作を連発し、自ら「働きマン」だった安野さんは、体調を崩したことも。鎌倉で「オチビサン」を描くことが、ご自身を癒やしたと聞きました。

 他の作品ではストーリーの起承転結や何を伝えるかを必死に考えたり、限られたページ数で詰めていくようなことをやっていました。「日陰は涼しい」ことだけが展開される「オチビサン」とは真逆です。でも、そういう漫画もいいんじゃないかと思ったんです。

 それまでの私だったら「日陰は涼しい」じゃストーリーにならないだろ!とボツにしていた。でも、オチビサンでは思ったことを捨てないで全部描く。自分のアイデアにダメ出しをしないと決めていました。「今日は暖かい」とか「足先が冷たい」とか感じたことをそのまま描くんです。そういう意味では、自分に対しても優しくなれる作品です。

●作為的でないズレ

──デジタル着彩が当たり前の昨今、「オチビサン」は手描きにこだわっています。

 アエラで連載を始めた時、水彩絵の具での着彩に挑戦しましたが、やはり「オチビサン」には切り抜いた型紙を用いて着彩するポショワールという技法が合っている。

 私が子どもの頃は印刷物に版ズレがありました。夜店で売っているメンコの版ズレがかわいくて。ああいうユルさがいま、社会からなくなっていますよね。手刷りでやると作為的ではなく、どうしてもズレたりはみ出したりすることがある。そうしたちょっとしたユルさに、人は安心するのではないかと思います。だから、あえてかっちりやらないようにしています。

──オチビサンが今回、改めて本になります。連載とはまた違った楽しみ方ができそうですね。

「今日は何もしないことにしよう」と決めた時にパラパラ眺めるとか、時間を楽しむとか、そんなふうに手に取ってもらえたら。私自身、忙し過ぎて心身が疲れていたときに、オチビサンを描くことで癒やされました。忙しくて余裕がなくなっているかもと思った時に、自分をちょっとリセットするのに読んでいただけたら一番うれしいかもしれません。

(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2016年9月12日号

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