祈りと行幸を軸とした象徴天皇が安定的に続くようにと願う「お言葉」。しかし代替わりによって「天皇制の姿は必ず変わる」と原氏/2016年8月8日、街頭の大型ビジョンにも天皇の姿が。大阪市北区 (c)朝日新聞社
祈りと行幸を軸とした象徴天皇が安定的に続くようにと願う「お言葉」。しかし代替わりによって「天皇制の姿は必ず変わる」と原氏/2016年8月8日、街頭の大型ビジョンにも天皇の姿が。大阪市北区 (c)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る

 国民の多くが共感したとされる天皇の「お言葉」。この言葉を「玉音放送」と聞きくらべた人がいた。歴史家・原武史氏だ。天皇が抱く「危機感」が垣間見えた。

 NHKの続けざまのスクープで、「その日」の詳細は次第に明らかになっていった。天皇に「生前退位の意向」があると報じられたのが7月13日。天皇の「お言葉」が8月8日頃、テレビなどを通じて国民に伝えられると報じられたのが7月29日。

 報道を横目に、放送大学の原武史教授(日本政治思想史)はツイッターに書き込んだ。

<8月8日に北海道の登別温泉に一泊し、翌日に神秘の湖・倶多楽湖を訪れる予定を前々から入れていた。航空券も旅館もおさえてある。それが今日の報道でキャンセルを検討せざるを得なくなった>(7月29日)

●実録と原盤の影響か

「お言葉」のニュース価値を認めたことだけが理由ではなかった。ある条件を満たせば、この「お言葉」の本質、つまり「お言葉」を近現代天皇制のなかでどう位置づけるべきかが垣間見えるという考えがあった。

「条件」とは、「事前の告知の有無」だと原氏は言う。

<告知されれば1945年8月15日の玉音放送にますます近くなる。暗に国民全体が見るように促すことにつながるからだ>(7月30日のツイッター)

 NHKが「(お言葉の)放送は8月8日15時から、約10分間行われる」と特報したのは、このつぶやきから5日後だった。

 終戦の詔書を読み上げた昭和天皇の肉声がNHKのラジオで放送された、いわゆる「玉音放送」の場合、放送前日の8月14日21時と当日の15日7時過ぎの2回にわたり、「重大放送がある」という内容の予告があった。その事実と今回の「お言葉」をめぐる一連の動きが、原氏の中で重なった。迎えた2016年8月8日15時。原氏は、2人の天皇の肉声がその内容でも符合していることに驚くことになる。

 14年には『昭和天皇実録』が公開され、昭和天皇が過去にどのような発言をしたか、活字で読めるようになった。さらに同年、劣化が進んでいた玉音放送原盤の音声が復元され、翌15年、原盤とともに公開された。天皇と皇后、皇太子および秋篠宮の4人も公開に先立ってこれを聞いたとされる。原氏は言う。

次のページ