もちろん、政府が特定の政策を推進するために特別な予算をつけて配分することはしばしばある。現政権の看板政策ともいえる「地方創生」が一例だ。

 こうした予算に関しても川瀬教授は「配分基準は客観的でなければならず、かつ政権に対する姿勢とは関係なく、全ての自治体に応募する機会が保障されなければならない」と訴える。

●予算巡りモラルハザード

 一方、基地政策を所管する防衛省は、全国の基地所在自治体を対象に補助金や交付金を配分しており、これは「基地政策とリンクした予算」と言えなくもない。なかでも、政策への賛否に絡める例外は、首長の姿勢によって不交付にすると規定された、2007年創設の「米軍再編交付金」だ。辺野古新基地建設に反対する現市長が当選した名護市では10年以降、不交付となっている。川瀬教授はこれを「公的資金の配分にあってはならないこと」と指摘する。

 今、問われるべきは、国庫予算の配分をめぐる政府のモラルハザードだ。「辺野古」をめぐっては、翁長雄志知事を相手に国が起こした違法確認訴訟の第1回口頭弁論が8月5日に福岡高裁那覇支部で開かれた。多見谷寿郎裁判長は、翁長知事の本人尋問は認めたが、8人の証人申請は却下。その上で、次回8月19日に結審、9月16日に判決という「スピード審理」を提示した。政府が裁判での勝訴を織り込み、辺野古での工事強行を目論んでいるのは確実だ。

 8月10日に翁長知事と会談した際、菅氏は「リンク論」への言及を避けた。沖縄社会を揺さぶり、翁長知事を牽制するには、現段階では予算カットや特例廃止をちらつかせるだけで十分との判断もあるのだろう。

「恫喝と強権発動」。沖縄に対する政治手法は、安倍晋三首相が繰り返す「県民の理解を得る」姿勢とは対極にある。翁長知事は5日の意見陳述で、国の訴えを否定した上でこう述べた。

「このような違法な国の関与により、全てが国の意向で決められるようになれば、地方自治は死ぬ。地方自治と民主主義の根幹が問われている」

 これは国民全体への警告だ。(編集部・渡辺豪)

AERA  2016年8月29日号

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