




超人的でカッコよく、クールジャパンの代表的存在──。そんなイメージ先行の「忍者」の真の姿が、最新の研究で判明しつつある。その生きる知恵をひもとくと……。
暗闇の中を素早く動く黒い影。高くそびえる城に着くやいなや、石垣に鉤縄を打ち込み、難なく乗り越えて城内へ侵入する──忍者のイメージといえば、こんな具合だろうか。
服部半蔵や真田十勇士のひとり猿飛佐助、はては世界的に有名になった「NARUTO─ナルト─」まで、忍者をとりあげたエンターテインメント作品は数知れず。こうした映画や小説、マンガによって、私たちの忍者イメージは作られてきた。だが、近年、歴史資料が見直される中で発見された「忍者像」は、従来のイメージとはかなり違う。
野山で過ごすときには食べられる植物の知識は欠かせないし、方角を知るためには天体の運行にも明るくなくてはならない。毒薬を作るには、薬草の知識も必要だ。従来のイメージに近い、爆破などの破壊工作も仕事のうちなので、火薬の取り扱いにも習熟している必要がある。
●理学を修め恩を忘れず
忍者の「業務」はそれだけではない。なんといっても、ライバル藩の動向を探り、不測の事態が起きたときには、現地調査のため、すみやかに敵地に潜入しての情報収集も欠かせない。商売人や旅芸人になりすますこともあるため、疑われないような芸の技量、知識も必要だ。
まるで、単身、外国に乗り込んで、現地の社会に溶け込み、ネットワークを作ってプロジェクトを遂行する、商社員やコンサルタントのようではないか。
現代人にも通じるような「忍者の心得」を、忍術書の中からいくつか紹介しよう。
「平素柔和で、義理に厚く、欲が少なく、理学を好んで、行いが正しく、恩を忘れない者」
「弁舌に優れて智謀に富み、平生の会話もすぐに理解し、人の言う理に乗じて欺かれることを大いに嫌う者」
右は、17世紀にまとめられるようになった忍術書の一冊、『万川集海』に書かれた、「忍者可召仕次第ノ事」(忍者に必要な十の要素)にあげられている文章だ。
こうした心得のすべてを体得している者は、忍者の中でも稀有な存在で、特に「上忍」と呼ばれ、主君はこうした人物をよく見極めて用いれば、必ず勝利を得られる──とされた。
忍術書は、実際の戦闘がなくなった江戸時代になってから編まれるようになった。その背景には、太平の世となり戦がなくなったため、忍術を伝承する実践の場が減ったことがある。だからこそ忍者の存在意義を示す必要が生まれ、書物で忍術や忍者の役割をアピールしようとしたようだ。
『忍者の歴史』の著書もある三重大学教授の山田雄司さんは「忍術書を見ると、精神修養の大切さも多く語られている」と語る。
特別な訓練を受け、様々な秘密を知る立場にある忍者にこそ、高潔な人柄が求められたからだ。
「一流の忍者になるためには、多様な能力が必要でした。たとえば情報を持っている人と仲良くなり、信頼されなくては、ほしい情報を得られません。そうなると総合的な人間力が求められます。敵方の城や屋敷に忍び込んだときには、証拠を残さないようメモをとらずに建物の内部を記憶し、後で図面に起こす必要があります」(山田さん)