●妊娠はゴールじゃない

 冒頭の益子さんの場合、「45歳まで」と最初に決めていたことが、次の人生への足掛かりとなった。治療をやめて2カ月後、湘南に家を衝動買い。現役を引退した夫とともに、自転車店を開く夢に向かって動き出すことができたという。

「不妊治療は、気が済むまでやり通せばいいと思います。でも、やめどきは決めておいたほうがいい。妊娠はゴールではなく、スタート。年齢も考えて踏ん切りをつけて、あとの人生を楽しんでほしい」(益子さん)

 不妊治療は、夫婦で価値観を共有することが重要だ。30歳で結婚し、子どもがいないまま年を重ねたマーケティングライターの牛窪恵さん(48)は、37歳のとき、夫と子どもについてとことん話し合った。夫は言った。

「『子どもがいれば仕事の幅が広がる』というのは君のエゴ。そんな気持ちだったら、僕は子づくりに協力しない」

 その言葉が腑に落ちて、本格的な子づくりをしない道を選択したという。

「子どもがいなくても、ペットを愛したり、地域の子どもの世話をしたりするなど、別の生きがいは見つかる。私の場合は、部下や研修先の新入社員がかわいくて仕方がありません。子どもがいても、巣立ってしまえば、最後は夫婦2人。よく話し、夫婦の関係を充実させることこそ、人生で重要だと思います」

●夫婦で乗り越えて

 不妊治療の終結と向き合うのは妻だけではない。「MoLive」代表で不妊カウンセラーの永森咲希さんの元には、時々、子どもを望む夫が相談に訪れる。

「妻が子どもはもういいと言うので治療をやめたが、僕の踏ん切りがつかない。この人でいいのかと思うようになった」

 と心境を吐露するという。また男性の両親が離婚を勧めるケースも。永森さんは、

「自分の運命を受け入れる強さを持てるかどうか。夫婦で乗り越える課題も多く、お互いの思いを確認し合う作業は、その後の人生にとっても大事です。うまくいけば、たとえ授からなかったとしても、とても深い絆が生まれるのではないでしょうか」

次のページ