「一度失敗して、経営者として利益を生み出すことの大切さは身に染みている。サイバーエージェントは全力でチャレンジした結果、失敗した人に対しては、責めたり、笑ったりはしない。この風土に救われて、失敗を糧にできています」
変化の激しいIT業界で生き残るためには、「失敗しないこと」より「失敗から学べること」のほうが大切で、新規事業の「打率」が上がる。
「挑戦した敗者へのセカンドチャンス」以外にサイバーエージェントが力を注ぐのは、失敗事例の社内での共有だ。14年に専門部署を設け、「最初は5億円の赤字を出したがV字回復を遂げた事業」「利益を上げられずに清算した事業」など、過去の事例を記録として残しはじめた。いくつかの事例は冊子にして全社員に配っている。
「何がよくて何が足りなかったのか、関係者から聞き取り、教訓をまとめました。記憶ベースだと失われてしまうのでプロジェクト化しています」(広報室)
新規事業を掲げて年間10社ほどの子会社を設立。その半数が事業を軌道に乗せて存続している。以前の「打率」は3割もなかった。大規模なM&Aではなく新規事業が、会社の成長を牽引(けんいん)している。
「われわれの競争力の源は、この会社で働く人。だから、企業文化と価値観の浸透は大事なのです」(同)
●「15%で手伝おうか」
「ポスト・イット」や焦げ付きがよく落ちるキッチンスポンジ「スコッチ・ブライト」など、数々のヒット商品を抱えるグローバル企業スリーエム(3M)を支えるのは、「15%カルチャー」という独自の企業文化だ。
米グーグルの「20%ルール」はよく知られているが、「15%カルチャー」はもっと歴史の長い不文律。社員は、全労働時間の15%を、ビジネスに役立つと思う新しい試みに費やしていい。やるもやらぬも個人の自由。うまくいかなくても罰則はないし、上司への報告も不要だ。
「つまり、15%は失敗してもいいということです。これがなければ3Mは3Mではなくなるというくらい、大事な文化」
とスリーエムジャパンの研究開発部門トップで常務執行役員の島田正志さん(59)は言う。
技術系に限らず、開発部門や営業部門、マーケティング部門にもこのカルチャーが浸透している。社内に共通認識があるのでサポートを頼みやすく、他の人の力を借りながらアイデアを高めることができるのだ。
「部門を超えて助け合う文化にもつながっています」
と島田さん。社内では、
「現行のプロジェクトではないんですけど、ちょっとわからないことがあって……」
「しょうがないな、15%で手伝ってやるか」
こんな会話がいつも交わされている。最近も、この「15%カルチャー」から新商品が生まれた。
きっかけは東日本大震災。あちこちでコンクリートがひび割れ、大規模な改修やインフラ整備などの工事が増えていく時期だった。あるエンジニアが工事現場で目にしたのは、作業員がホースで橋全体に水をかけている姿。施工時にコンクリートを十分に硬くするため、表面に水を行き渡らせる作業だ。