地方に住んでいれば、何の迷いもなく公立で学ばせるのに。そう考える東京の親は少なくない。本来は喜ぶべき「選択肢の多さ」が都会の教育のストレスになっている。
東京生まれの東京育ち。私立の中高、国立大学を卒業し、国家公務員として働く男性(40)が霞が関の中央官庁を出たのは、午前0時過ぎ。混み合う終電でやっと自宅にたどり着く毎日だ。駅のホームで、東京大学卒で都内にマイホームを持つ先輩官僚が自嘲気味に一言。
「俺たち負け組だよな」
負け組を自称するのは、出世しなかったからではなく、むしろ逆だと男性は言う。
「私生活と仕事のバランスを保って豊かに暮らす地方の公務員がうらやましい。都心は戦場。子どもに東京で自分と同じレールを歩ませたいと思えない」
もはや、東大を出れば勝ちという時代ではない。学力と同時に「未来を生き抜く力」を育むには受験に追われる東京ではなく、地方のほうが適しているのではないか──。多くの親が、漠たる不安を抱えている。
だがこの国家公務員の男性の長女(11)も週3回、中学受験塾に通う。彼は理由をこう話す。
「田舎暮らしは即決できない。ならば東京で、将来を見据えた“いい教育”を選ぶしかない」