中国が世界経済の主役に躍り出たのは2008年のリーマン・ショックのときだった。低迷する先進国経済を尻目に、中国政府は4兆元(当時で50兆~60兆円規模)というけた違いの景気刺激策を実施。縮む世界経済という風船に空気を送り込むポンプ役を果たし、世界経済の救世主だと評された。
たしかにその後しばらく、中国の国家資本主義はうまくいった。ただその間、ひずみも広がっていた。中国はひたすら資源を買い集め、鉄鋼やセメント、自動車、携帯電話などあらゆる工業製品の生産力を拡大した。だがその拡大ほど人々の消費は伸びなかった。金持ちもたくさん誕生したが、貧しい人々は依然として多く、格差が広がっていた。中国の高成長を支えたのは消費でなく、あくまで投資だった。そして、いよいよそのやり方にも限界がきている。
たとえば驚くべき需給ギャップの代表例として主要素材の鉄鋼があげられる。中国の鉄鋼の供給力は年10億トン以上といわれる。これに対し国内消費は7億トン。3億トン分の余力設備については輸出向けにするか、遊ばせておくしかない。世界2位の日本の生産量が1億トン余りだから、その設備過剰のすさまじさがわかろうというものだ。
今回のショックで投資家や市場関係者からは「4兆元対策の夢よ、もう一度」とばかりに、中国政府の財政出動の再来を期待する声が出ている。だが、これほど巨大な需給ギャップがあるなかで、さらに投資を積み上げることなどできるのだろうか。
みずほ証券の上野さんの見方も否定的だ。
「中国政府も、4兆元の景気刺激策が不動産バブルを発生させるなど大きな問題を生じさせてしまった、と強く反省しています」
※AERA 2015年9月7日号より抜粋