半世紀前に起きた大虐殺を描いた映画「ルック・オブ・サイレンス」。被害者と加害者の「直接対決」の末に起きるのは──。
自分の家族を不当に殺した者が裁きを受けないどころか、出世し、利権を得て、幸せな顔で暮らす姿を日々目撃しながら生きる不条理は、想像するだけで慄然とさせられる。
インドネシアの「9.30事件」が引き金となった大虐殺をテーマにしたドキュメンタリー映画「ルック・オブ・サイレンス」は、そんな不条理を打ち破ろうとする作品である。現実に殺された者の家族と、殺した者を「対決」させるという離れ業を実現した米国生まれの監督、ジョシュア・オッペンハイマー氏に、まずは脱帽して敬意を表したい。
9.30事件はスカルノ政権末期に起きた。1965年9月30日の「共産党クーデター未遂事件」だ。これを口実に、スハルト少将(後の大統領)の指揮下にある軍部と、その手先の民兵によって大規模な掃討作戦が展開された。事件後、影響力を失ったスカルノは、スハルトに政権委譲を迫られた。
インドネシア現代史に詳しい倉沢愛子・慶應義塾大学名誉教授によると、殺された者の中には共産党と関係ない人々もたくさんおり、犠牲者は50万人から300万人まで諸説あるという。