高く積まれた古書の山から一つひとつ手に取って確かめ、メモを取りながら、連れのスタッフと「この棚、全部買ったらいくらだろう」「こんなに貴重なものを並べていて、よく盗まれないな」などと話し込む。

 李さんは今回、日本進出に向けた視察で来日したが、自身が古書コレクターでもあり、仕事の合間を縫って書店を回っているところだった。

「日本には、中国にはない書物が残っていると聞いていましたが、これほどとは驚きです。今回は視察ですが、次は1千万人民元(約2億円)ほど予算をもって、まとめて買いに来たい」

 日本古書籍商協会の八木正自(まさじ)会長によれば、日本の中国語の古書の多くは、江戸時代に長崎経由で幕府が買い上げたり、個人が買ったりしたものだ。江戸時代には留学のために来日した中国人が、日本の中国古書の豊富さに驚いたこともあった。

「古書の買い手は、かつては大学や自治体の公共図書館でしたが、最近は予算が減らされ、国内需要はピーク時の10分の1以下です」(八木さん)

 日本が長年蓄積した「知識」が中国に買い戻されてしまう形だが、前出の山本さんは言う。

「先輩たちが一生懸命集めたものが出ていくのは、もったいないと思いますし、できれば国内にとどめておきたい。でも、定価で買ってくれるのは中国の方しかいないのが実情です」

AERA 2015年6月8日号より抜粋

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