父はレース中、ほとんど息子に声をかけない。「ほめるのは完走したときだけ」と父。そのゴールを目指し、2人は必死の形相で走る(撮影/ジャーナリスト・辰濃哲郎)
父はレース中、ほとんど息子に声をかけない。「ほめるのは完走したときだけ」と父。そのゴールを目指し、2人は必死の形相で走る(撮影/ジャーナリスト・辰濃哲郎)
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 親子で100回目の大会で初のフルマラソン。ふたりの走りは、周りの多くの人に影響を与えている。

 島ならではの強風が吹き荒れるなか、ひと組の親子が3月28日、「伊豆大島一周マラソン」のスタートラインに立っていた。

 長野県麻績(おみ)村でケアマネジャーとして働く関崎豊さん(42)の長男で、小学6年生の智琉(さとる)君(12)=現在は中学1年生=は自閉症だ。今回が2人で走る100回目の大会になる。その記念すべき大会で、初めてのフルマラソンに挑んだ。

 午前9時。船客待合所前をスタートした智琉君は、表情を変えずに父親の大きな背中を追っていく。

 親子でのマラソン挑戦が始まったのは5年前だ。落ち込むことが多かった智琉君には、自分を肯定する自尊感情が必要だと感じた豊さんは、智琉君をほめることを心がけた。だが、何もしていない子をほめることにも抵抗がある。

 そんなときに出合ったのが、ランニングだった。前橋シティマラソン3キロの部に出場した。手を引いてのゴールだったが、制限時間内に完走した。

「よくやった」

 筋力の弱い智琉君は速くはない。内股でヨタヨタと頼りなく走る。だが、不思議と「走りたくない」とは言わない。以来、距離を少しずつ延ばし、昨年はハーフマラソンを完走した。

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