フリーランスの人々が仕事をする場だと思われてきたコワーキングスペース。最近は、会社員も利用するケースが増えている。家でも会社でもなく、あえてその場を選ぶ理由とは。
職場のデスクから歩いて10分。日本橋三越本店で再開発担当マネージャーを務める根石賢太郎さん(39)は、週に5時間ほど、コワーキングスペース「Clipニホンバシ」で過ごす。書類を作ったり、社外の人と打ち合わせをしたり。わざわざ移動しなくても…と言いたくなるが、こう言い切る。
「集中できるし、アイデアが生まれやすい環境が整っているんです」
個人での作業に限らず、週1回のミーティングだってここだ。総勢30人の大移動。売り場のスタッフも制服のまま外へ出る。
「移動の途中に、ほかの店のウィンドーを見たり、道行く人々の声が聞こえてきたり。場所を変えることで、会議の雰囲気は変わりましたね。過去に出たアイデアの延長線上にはない、ブレークスルー型の案が出るようになりました」
「Clipニホンバシ」を手掛けるのは、大手ディベロッパー、三井不動産。「新たな事業を社外でクリエイトする」をコンセプトに、昨年4月にオープンした。利用料は月1万5千円。
コワーキングスペースを利用するのは、圧倒的にフリーランスが多いと思われてきたが、Clipでは現在150人超の会員のうち半数が会社員。メーカー、金融、マスコミと業種も多岐にわたる。
電源、Wi‐Fi、プリンター完備。ビジネス系の雑誌や書籍も置かれ、壁面ホワイトボードも文房具もそろう。昼間は、自宅でも職場でもないサードプレイスとして利用する会員が多いが、夜になると各界のプロが集まるイベントの場となる。
たとえば、「水曜Clip」と名づけられた週1回行われるワークショップ。出会い→学び→実践→復習、という一連のプロセスを通して、アイデアを形にする方法を学ぶ。個人でコンタクトするにはハードルの高そうな“いま面白い人”の話を間近で聞き、意見ももらえる。
高濃度のネタを効率よく手に入れることのできる場所として認知されるようになり、豊洲や六本木から30分以上かけてやってくる会社員もいるという。
※AERA 2015年2月16日号より抜粋