「海の男」を率いて萩の魚をブランド化萩大島船団丸代表 坪内知佳(28)山口県萩市で魚の自家出荷の仕組みを構築。福井県から移り住み、代表になる前は、個人で翻訳などの仕事をしていた(撮影/畑谷友幸)
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「海の男」を率いて萩の魚をブランド化
萩大島船団丸代表 坪内知佳(28)

山口県萩市で魚の自家出荷の仕組みを構築。福井県から移り住み、代表になる前は、個人で翻訳などの仕事をしていた(撮影/畑谷友幸)
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 強いカリスマより、目の前にいるすべての人を大切にできるリーダーに。そんなマイノリティリーダーが、漁業の世界で活躍している。

 山口県萩市の漁師集団「萩大島船団丸」は2012年、3船団、約60人の漁師でスタート。新鮮な魚を漁師が直接、適正な価格で販売する「自家出荷」に取り組む。国が推進する「漁業の6次産業化」の流れに沿ったものだ。同様の事例は他県にもある。違うのはリーダーの姿だ。

 萩大島船団丸代表は、坪内知佳さん(28)。女性で、漁業経験はなく、若くて県外出身。「超」がつくマイノリティーのリーダーなのだ。

 結婚を機に移り住み、行政に提出する書類の作成を手伝ったことがきっかけで、萩大島船団丸の代表になった。漁師たちとの心の距離は、時に怒鳴り合うことで縮めてきた。

 例えば魚の出荷。水揚げした魚は組合や市場を通じて飲食店やスーパーに出荷してきたが、いまは漁師が自分で箱詰めし顧客ごとに直接出荷する。あるとき、こんなクレームがあった。

「袋が破けて、氷が飛び出ているじゃないか!」

 鮮度を保つため搬送時には氷を使うが、溶けると魚が水っぽくなるので氷は袋に入れて添える。その袋が破れていた。

 坪内さん的には即改善!だったのだが、漁師たちは気乗りしない様子だ。聞けば、「プライドがある」という。魚をとることには命をかける彼らだが、顧客の要望を聞いたり頭を下げて改善したりする土壌はなかった。ここで坪内さんは吠えた。

「あんたらのプライドって、一体、何やの!?」

 これでは生き残れない。顧客満足は魚の質だけでなく「どう届くか」も含めたトータルで生まれるものだと伝えたかった。

 逆に、必要に応じて一人ひとりに寄り添うことができるのも、坪内さんの強み。自ら開拓した顧客からの受注やクレームにはすべて坪内さんが対応していたが、ある時期から漁師たちに任せている。130軒あった取引先は60軒まで減ってしまったが、それでも一人ひとりに「都会のニーズ」に触れてほしかった。失敗すれば話を聞き、成功すればほめた。

 月に1度は、荒くれ男たちに食事をご馳走する。仕事の悩みだけでなく、家族の話にもとことん付き合う。坪内さん自身、「目の前にいるすべての人を、ちゃんと人として大切にするリーダー」を目指しているという。

AERA 2014年12月29日―2015年1月5日合併号より抜粋