アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はTOTOの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■TOTO 衛陶生産本部 衛陶試作技術グループ グループリーダー 向井信弘(44)
身近にある便器や洗面台は、陶芸の道に通じている。これら衛生陶器は、大きな焼き物。陶石や粘土を調合した「泥漿」を「型」に流し込む。型を外して乾燥させ、釉薬を吹き付けて窯で焼き上げる。
TOTOの衛陶試作技術グループを率いる向井信弘は、製品の形を決める「型」の製作を担当している。形がなめらかでなければ、汚れをスムーズに洗い流せない。理想の形をつくるには、職人の技がいる。
「乾燥や焼き上げで水分が抜ける。焼き上げを終えたものは、型に流し込んだ状態から13%は縮むんです」
だから、縮み具合の予測が正確でなければ、仕上がりのなめらかさが失われるばかりか、ひびが入ることもある。
北九州市内の工業高校を卒業し、1988年、地元のTOTOに入社した。先輩社員は気温、湿度の変化を感じながら、焼き上がりの形を「勘」で読んでいた。あれから25年。仕事の一部はデジタル化されたものの、複雑な形状の縮み具合を読むのは、いまも「暗黙知」に拠る部分が大きい。
課員は40人いるが、型づくりに従事するのは11人。その中でも最初から最後まで任せられるのは、向井も含めて5人しかいない。ほかは「修業中の身」といったところだが、仕事に口を出すことはしない。
「失敗しないと、覚えませんから」
その腕を見込まれ、中国の生産拠点で製造管理の責任者を務めたこともある。型づくりを熟知しているかのように見える向井だが、いまもよく考え込むことがある。たとえば最新モデルのタンクレストイレ「ネオレスト」。見た目は、床面に向かってストンと伸びていて、スマート。旧来型と比べると直線と平面が多用されている。
「実は陶器って、まっすぐや平面がもっとも難しいんです」
カンタンに見えることが、最も奥深い。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・岡本俊浩)
※AERA 2014年6月23日号