野村信託銀行 社長真保智絵さん1989年野村証券入社。資本市場部、エクイティ部、経営企画部など、数々の部署を経験してきた。自らを「便利屋」だという。その幅広い経験が、マネジメントに生きている(撮影/高井正彦)
野村信託銀行 社長
真保智絵さん

1989年野村証券入社。資本市場部、エクイティ部、経営企画部など、数々の部署を経験してきた。自らを「便利屋」だという。その幅広い経験が、マネジメントに生きている(撮影/高井正彦)

 大ヒットドラマ「半沢直樹」で描かれた銀行の世界は、“男社会”そのものだった。だがこの4月、そんな銀行の風景が一変した。

 三井住友銀行、みずほ銀行で生え抜きの女性役員が誕生。そして、野村ホールディングス傘下の野村信託銀行では日本で初めて、銀行に「女性の社長」が誕生した。

 新社長の真保智絵さん(48)は、周囲の驚きをよそに、淡々としている。

「会社員である限り、人事は天命だと思っています。自分の力に期待して役職が与えられたら、それに誠実に向き合い、プロとしてのクオリティーの仕事をすることにこだわってきました」

 1989年、野村証券に女性総合職2期生として入社した。同期約300人の中で女性は7人だけ。それでも、真保さんは「女だから仕事がしにくい」と感じたことは一度もなかったという。結果が数字に出るトレーディング部門に在籍していたこともあって、成果さえ上げれば評価はついてきた。

 自分を支えてきたのは「好奇心」と「たわみ」だという。 偉くなりたいとは思わなかったが、「上に行ったらどんな景色が見えるのだろう」とは思った。その好奇心が、結果的に昇進の原動力になった。責任が増すことをつらいと捉えるか、自分で差配できる仕事の領域が広がっておもしろいと捉えるか。この差が大きいという。

 ポジションが上がるほど、失敗すれば組織全体に与える影響は大きいが、起きてしまったことはくよくよ考えない。その代わり、ミスを挽回するために全力を尽くす。

「たとえへこんでも、ずっとへこみ続けない。しなやかにたわんで前を向く。女性には、この力が必要だと思います」

AERA  2014年5月5日―12日合併号より抜粋