ビジネスにおいて重要なスキルのひとつである「編集力」。人と人をつないだり、情報発信をしたり、周囲の声を受けて業務改善に生かしたりと、その能力は様々な場面で役立つ。そしてこの能力、実は脳の中では無意識に使われていることがあるようだ。

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 あめ、酸っぱい、砂糖、苦い、おいしい、味、歯、良い、蜂蜜、ソーダ、チョコ、心、ケーキ。

 これらの言葉を集中してじっくり読んだ後、手で隠して下さい。隠したまま思い出して下さい。次の言葉はありましたか?

 味、ポイント、甘い。味はあった。ポイントはない。甘いは?これは、心理学の講義でよく使われるデモンストレーション。実際にはなかったにもかかわらず、「甘い」があったと答える人は少なくない。甘いものに関する言葉が多かったので、誤って「思い出す」のだ。

 ヒトは細部まですべてを記憶するのは苦手だ。目を開けていれば、膨大な視覚情報が飛び込む。カメラのようにすべて記録(記憶)していたら、必要な情報に短時間でアクセスできないだろう。そこで、情報を蓄積する過程で余分なものを落とすある種の「編集」がなされ、記憶は断片的に行われる。思い出す時は断片記憶をつなぎあわせ「文脈」として取り出す。その時、文脈に近いものが紛れ込むと、幻の記憶すら簡単にできる。

 米カリフォルニア工科大学の下條信輔教授(認知科学)は、「編集は、過去のものをまとめるというイメージだが、脳の新皮質が整合性の高いコンパクトな形に編集して記憶するのは、未来に役立てるため」と話す。

AERA 2014年4月28日号より抜粋