東日本大震災から3年。震災復興は遅々として進まず、原発事故の先行きも見えない。そんな中、東京電力では原発再稼働を目指す“守旧派”がうごめいている。

 東電守旧派の悲願は、ひと言でいえば「3.11以前の東電」に戻ること。その“精神的支柱”が、前会長の勝俣恒久氏である。

 勝俣氏といえば、2012年6月まで東電の“天皇”として君臨。かつては「カミソリ」の異名をとった切れ者だ。兄は新日本製鉄(現新日鉄住金)の元副社長、弟は丸紅の元会長で、財界では「勝俣3兄弟」としても知られる。02年に発覚した原発の「トラブル隠し」問題で、歴代社長の平岩外四、荒木浩、那須翔の3氏と、現職の南直哉社長が責任を問われ、勝俣氏が新社長に就いた。以来、社長、会長として10年にわたって東電を率いてきた“最後の大物”である。

 福島第一原発の事故後、東電が実質的に国有化される際には、できるだけ国の議決権比率を低くして、経営の主体性を温存しようと画策。しかし、抵抗もむなしく、企画部の“愛弟子”である西澤俊夫社長とともに、東電を追われた。そんな勝俣氏の“権威”がいま、東電内で復活しているというのだ。

 東電は、勝俣氏について、「すでに会社とは何の関係もない。どこで何をしているのか分
からない」(広報担当)と説明するが、ある東電社員は、こう内情を明かす。

「勝俣さんは、いまも当然のように社内で隠然たる力を持っています。何かあるたびに上層部から、ひそひそと『勝俣さんに聞いたらどうか』なんて声が聞こえてくる。とくに政治案件や銀行絡みの話になると、名前が出ますね」

 さらには、次期会長の人事が取り沙汰された昨年末、勝俣氏が酒の席で語った発言として、こんな言葉が東電内でささやかれている。

「役所、政治家、すべてこちらが面倒を見てきた。外から来た人間に勝手にはやらせない」

 どの話も真偽のほどは定かではないが、勝俣氏のカリスマ性が健在であることは確かだ。

AERA  2014年3月17日号より抜粋