●測定網の整備不可欠

 13年10月、本県でUNEPの外交会議が開催された。この場で、水銀の使用や輸出入、排出などを包括的に規制する「水銀に関する水俣条約」が、中国も賛成して採択された。大気、海洋、陸水域と国境を越えた水銀汚染の広がりや、水俣病的疾患の多発が憂慮され、水銀使用を厳しく国際的に規制する第一歩が踏み出された。

 条約づくりに深く関わり、条約採択の地も提供した日本はいま、大気を通した中国からの水銀汚染に脅かされている。それにもかかわらず、日本には水銀による大気汚染の公的な測定網がなく、漁業が行われている陸水域での水銀沈着の実態を把握する計測体制も整ってはいない。一研究チームの努力だけでは、この深刻な事態に対処しきれないことは明らかだ。

 一方、厚生労働省は03年と05年、妊婦や妊娠の可能性がある人を対象に、一部のクジラやマグロ、メカジキ、キンメダイを食べ過ぎないよう、注意を呼びかけ、具体的な節食策まで発表した。食物連鎖によって濃縮された水銀が、水俣病のときのように胎児に影響する可能性が指摘されているためだが、陸水域の魚介類の水銀汚染については、こうした注意喚起は行われていない。

 環境省は、永淵教授の研究チームの調査結果を「まだ承知していない」(宮崎正信・水環境課長)という。ただ、言えるのは、PM2.5に限らず、水銀についても測定網の整備が欠かせないということだ。それも大気だけでなく、河川や湖の魚類についても調べる必要がある。もはや空と水の汚染を分けては考えられない。

 中国からの越境汚染は、日本全土の環境を確実にむしばみつつある。

AERA  2014年3月17日号

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