そこから考えられるのは、日本の大気の水銀の大部分は中国発で、それはおおむね石炭の燃焼によって発生したということだ。石炭には水銀、ヒ素、テルルなどの物質が含まれているが、中国の工場や発電所は、排煙の除去設備の導入が立ち遅れている。
中国から飛来した水銀の一部は酸化されると、雨に溶けて日本の地表や水面に沈着する。琵琶湖には、伊吹山地や周辺の山々から、多くの河川が流れ込んでいる。水銀を取り込むプランクトンを小さな魚が食べ、その魚を中型魚が食べ、それを大型魚が食べ、だんだんと水銀が濃縮されていく。アユやマスを捕食するビワコオオナマズは、琵琶湖の生態系の頂点に位置している。
このオオナマズの水銀濃度は、いま水銀汚染が心配されている海洋の常食魚マグロのそれを超えるくらい高かった。まさに教科書通りの食物連鎖によるものと推察される。
こうした現象は、琵琶湖に限った話ではない。永淵教授は警告する。
「ほかの内陸水域の測定はしていないので分からないが、琵琶湖と同じように、生態系の上位にいる魚類は水銀濃度が高い可能性がある。水銀はたまっていく。初めはその影響もじわじわという具合だが、やがて突然、スパンと大事が起こる」