日本人が開発支援をした冷蔵庫が、インドで注目されている。成功の秘訣は、現地に飛び込んだことにあるようだ。
チョットクール。そんな名称の冷蔵庫が今、インドで売り上げを伸ばしている。見た目はさながらクーラーボックスだ。扉は一般的な横開きではなく、上に開く。冷気が逃げないようにして、電気の消費量を抑えるためだ。重さも9キロ弱と軽い。大家族が狭い部屋で使う際、楽に場所を移動できるようにと配慮した。価格も3250ルピー(約5400円)と常識を覆す安さ。こうした要素が低所得層を引きつけた。
製造したのは現地のゴドレジ・ボイス社。開発を支援したのが、国際協力機構(JICA)から依頼を受けた筑波大学の司馬正次名誉教授だ。インドの人口は約12.4億人と、中国に次いで多い。経済成長を追い風に、15~64歳の生産年齢人口は、2040年ごろまで増え続けると予測されている。だが、現状では98%の国民は年間可処分所得が3千ドルに満たない。8割の人は冷蔵庫を持っていない、という現実を改善したいとの思いが開発の原動力になった。
「新しいものを生むには、金魚鉢を外から眺めるのではなく、飛び込まないと」
米マサチューセッツ工科大学で製造業のイノベーションを研究していた司馬さんは、現地メーカーの社員にそう発破をかけた。一部の社員はある農村に移住。司馬さんもたびたびインドを訪れ、開発を指導した。たどりついたのは「モノが腐らなければいい」というシンプルな結論。そもそも冷蔵庫がなかった村人には、氷を使ったりアイスクリームを食べたりする習慣がなく、冷凍庫のニーズはなかった。冷蔵スペースに特化し、コストを抑える工夫を盛り込んだ。
発売は09年。革新性が称えられ、12年には米国電子電気協会が選ぶ「エジソン賞」も受賞した。司馬さんは言う。
「丁寧にニーズをくみ取れば、途上国には革新を生み出す機会があふれている」
※AERA 2013年12月30日-2014年1月6日号より抜粋