ここ数年、農学部を志望する学生が増えているという。背景には社会的に食や健康、環境への意識が高まっていることがあるようだ。また一方で、農学系の学部は就職にも強いという。
農学系は学問領域が広いため、就職先も幅広い。たとえば東大の12年度学部卒業生の就職分野を比較すると、工学が13、理学が6なのに対して、農・獣医学は官公庁やメーカー、商社のほか、一見農学と関係のなさそうな流通や金融、保険なども含めた15分野にまたがっている。農学系の学生は就職先での評価も高いという。
「農学は実学で、問題解決に向けて様々な視点やアプローチで取り組む。そういった思考を養う教育が仕事をするうえで役立つのでは」(東京大学農学部男女共同参画推進企画室の武内ゆかり准教授)
企業からのアプローチも多く、農学専門の東京農業大学(東京都世田谷区)は13年卒有効求人倍率が2.28倍と、全国平均の1.27倍(リクルートワークス研究所調べ)を大きく上回っている。就職先も食品、製薬、化粧品メーカーのほか公務員、教育、建築、サービスなど多岐にわたっている。
同大でも年々女子学生比率が高まっており、93年は27%、1学部から4学部に改組した98年に34%と急上昇し、現在は41%に達している。農学系は基本的に理系の学部だが、国際食料情報学部の3学科、生物産業学部の地域産業経営学科などは選択によって英国社でも受験できる。他大学でも経済系、経営系などの学科は英国社を選択できるところが多く、数理が苦手でも受験は可能だ。
「農学系に入学する学生は目的意識が高く、勉強に対するモチベーションが高いですね。授業や実習に真剣に対峙します」(東京農業大学戦略室・上田勉室長)
地域環境科学部生産環境工学科4年生の松本真実さんも、中学時代にテレビで貧困地域の飢える子どもの姿を見て、「砂漠に緑を植えて作物を育てたい」と志願し入学した。3年次の夏休みには、大学の短期留学プログラムでタンザニアの農村を視察。現在は土壌の塩類集積を改善する研究を行っている。同大の東日本支援プロジェクト土壌肥料チームが津波の被災地で成果を上げた手法で、鉄鋼を精錬するときに出る廃棄物のスラグを使う。現在は、塩類集積の土地が多いタイへの応用が検討されているという。松本さんは農林水産省への就職が決まっており、将来は発展途上国で働きたいと意欲を見せる。
※AERA 2013年11月4日号より抜粋