お寺というとどこか堅苦しいイメージがあるが、最近はそうでもない様子。お寺をカフェとして開放するところが増えており、中には男女の出会いイベントを開催しているお寺まである。
大自然の中で飲食や仏教体験を楽しめるのが、埼玉県秩父市にある太陽寺の「寺カフェ 千寿」。秩父多摩甲斐国立公園内の標高約850メートル地点にあり、東京から数時間の距離とは思えない雄大な光景が広がる。
夏には青葉が、秋には紅葉が山々を彩り、境内に立つと、川のせせらぎや鳥のさえずりが聞こえてくる。深呼吸をするだけで、心が洗われるようだ。
「本来、お寺は地域の文化の発信基地であり、交流の場でした。こんな山奥まで来ていただいて、ただ手を合わせて帰るのではもったいない。現実から離れ、この雄大な景色の中で何かを感じてもらえたらと思い、食事や宿泊の提供を始めました」
住職の浅見宗達さん(49)は、8年前に宿坊を、4年前にお寺カフェの運営を開始した。宿坊には年間約700人が訪れ、ヨガイベントや男女の出会いの場を提供する宿坊コンを開催するなど、文化交流の場としても活用されている。以前は「カルモグ」という名称だったカフェは改装中で、来年4月に「寺カフェ 千寿」として再開させる予定だ。
「建物はつくりますが、寺全体をカフェとして開放します。どこでも気に入った場所に腰を下ろして、非日常空間で飲食を楽しんでください」
太陽寺では、カフェ利用者も予約をすれば写経体験が可能。大自然を目の前に静寂の中で筆を握ると、おのずと背筋が伸び、筆先に気持ちが集中していく。浅見さんによれば、それが禅のテーマ、「空(何もない無我の状態)」に近づくことらしい。
驚くことに、この周辺は携帯電話の電波が届かない。現代人には不便この上ない環境だが、ここに来ると考え方も変わってくるようだ。
「便利な21世紀の圏外に身を置くことが、実は自由である。太陽寺に来れば、そのことに気づいてもらえるはずです」
※AERA 2013年10月7日号