才人ドラマーの初リーダー作に惚れ惚れ
Migration / Antonio Sanchez(Camjazz)
7月に取材でストックホルムを訪れた時、200人収容の現地最大規模のジャズ・クラブ“ファッシング”でジョシュア・レッドマン・トリオを観た。ドラマーのアントニオ・サンチェスはパット・メセニー・グループでのプレイがオーバーラップする熱演で、2時間ノンストップのステージで我々をノックアウトしてくれたのだった。
4ビートを基本に21世紀型ビートを提示する新世代ドラマーの人口が豊かになっている現在、サンチェスはアコースティック系からフュージョンまでをカヴァーするキャパシティの幅広さで頭角を現している才人だ。これまでのキャリアで豊富な人脈を築いているサンチェスは、この初リーダー作の制作にあたってコネクションをフルに活用することも可能だったはず。
その上で選んだコア・バンドはタイプの異なる2テナー+ベースとのカルテットだった。2曲目《ディド・ユー・ゲット・イット》で想起したのは、ジャコ・パストリアス楽団のウエイン・ショーターとメセニー・グループのマイケル・ブレッカー。実績十分のポッターとダヴィッドに、サンチェス好みの役割を重ねたのだろうか、との思いがよぎる。
3曲目のメセニー参加&提供曲がサンチェスへのご祝儀の域を超えていることや、自作2曲を贈ったチック・コリアが終始シリアスな表情で作品に貢献しているのも、本作がお祭りムードにならなかった点で収穫。複雑なビートを刻みながら多彩な表情を打ち出すサンチェスのテクニックには、惚れ惚れしてしまう。キャリアのステップ・アップになる、遅すぎたデビュー作だ。
【収録曲一覧】
1.One For Antonio
2.Did You Get It?
3.Arena
4.Challenge Within
5.Ballade
6.Greedy Silence
7.Inner Urge
8.The Hummingbird
9.Solar
アントニオ・サンチェス:Antonio Sanchez(ds)(allmusic.comへリンクします)
クリス・ポッター:Chris Potter(ts)
ダヴィッド・サンチェス:David Sanchez(ts)
スコット・コリー:Scott Colley(b)
パット・メセニー:Pat Metheny(g)
チック・コリア:Chick Corea(p)