参院選で、安倍晋三首相が自信満々に打ち出す経済政策の柱、成長戦略。ズラリと並ぶ数値目標のわりに、全体像はぼやけて見える。
安倍首相は6月5日の会見で、「今回の成長戦略では『KPI』すなわち『達成すべき指標』を、年限も定めて明確にした」と胸を張った。「官僚の作文」と非難されないため、聞きなれない「KPI(重要業績評価指標)」という数値目標を随所に盛り込んだ、というわけだ。
成長戦略でぶち上げた「女性の活躍」「世界で勝つ」「民間活力の爆発」という3本柱に異論はない。しかし、残念ながら“実態”はこれまでと大差ない。大風呂敷を支える次の「数字」の具体策が見えないのが、今回の「骨太政策」の弱点だ。
たとえば、育児支援などの女性活用策。待機児童対策として、保育園で預かる子どもの数を「5年で40万人」増やすという数値目標に対し、東京・世田谷のある保育士は「職員全員が保育士資格を持つ義務づけ規制が大きな壁」と見る。保育士の試験は合格率が10%台で、園に配置する有資格者の割合を10割ではなく、「8割程度に緩めるのが現実的だ」という指摘が、政府の規制改革会議でも出た。ところが、「暫定的な規制緩和でできる肝心の数値が抜けた」(改革会議関係者)というのだ。
さらに、全国に保育士資格を持ちながら保育に就かない人は数十万人に達するが、「フルタイムの正職員でないと補助金の対象でない」(先の保育士)という壁もある。パートでも「待機保育士」を活用しないと「5年で待機児童0に」という目標達成は無理だろう。
看板政策である「一人当たりの名目国民総所得(GNI)を10年後に4割(150万円)増やす」という構想は、最も“骨太”に見える。
首相は当初、「一人当たり所得が150万円増える」という言い方をした。しかし、「勤労者の年収が150万円増える」というのは事実と違う。企業所得を除くと国民総所得に占める給料分は半分程度に過ぎないからだ。これが「やっぱり首相は経済音痴」「数値目標はいい加減」という評価を招いている。
そもそもGNIの成長率は、為替や輸出入品の価格動向に影響を受ける。日本の貿易収支が赤字化したなか、アベノミクスのような「円安誘導」はマイナスに働きかねない。
しかも、高齢化と人口減少から実現可能な潜在成長率が年0.5%程度とされるなか、バラ色の数値算出の前提となる今後10年間平均の名目成長率は、なんと3%と超高率。
こんな絵空事の羅列だから、市場からは、「子ども・労働人口を増やす、社会保障費を抑える、財政赤字を減らすといった目標にも裏付けのある政策はまったくない」(スイス系証券会社幹部)と見透かされている。
※AERA 2013年7月15日号