
現役、英国人ピアニストの最高峰による新作
Whirlpool / John Taylor
現役の英国人ピアニストの最高峰は誰かと問われれば、ぼくは迷わずジョン・テイラーと答える。1971年の初リーダー・アルバム『覚醒』は、今聴いても衝撃的なトリオ作だ。その後ケニー・ホイーラーと結成したアジマスや、サイドマンとしてECMとの結びつきを深め、同レーベル関連では近年久々のリーダー・セッションとなった『ロスリン』も記憶に新しい。
本作は2004年録音の前作『Angel Of The Presence』と同じメンバーによる続編である。ベースのパレ・ダニエルソンは70年代にキース・ジャレットのヨーロピアン・カルテットで世界的な名声を獲得したスウェディッシュで、ドラムスのマーティン・フランスはヒューマン・チェインやジャンゴ・ベイツとの共演を通じて頭角を現したブリティッシュ。世代と国境を超えたこのトリオは、しかし“レギュラー・トリオ”としてのオリジナリティをすでに確立していることが、1曲目から体感できる。自分が生体験したことを踏まえて言えば、ピアノ・サウンドはいつものことながら息を呑むほど美しい。さらに聴き進めていくとトリオが爆発力を発揮するスリリングな瞬間が幾度か現れ、アルバム構成の面でも秀逸なことが感じられる。テンポ・ルバートの心地よさは、自然体の姿勢から発せられるテイラーの音楽性が演奏に反映されているからなのだろう。多くのカヴァー・ヴァージョンで聴き慣れた本作中唯一のスタンダード曲《アイ・ラヴ・ユー・ポーギー》は、表現美のマエストロとも言われるテイラーの真骨頂となる名演。CAM Jazzに移籍して以降、本作で3曲採用したホイーラーとのコラボレーションを再び密接にするなど、音楽家としての充実度を深めるテイラーの魅力をぜひ味わってほしい。
【収録曲一覧】
1.Consolation
2.Whirlpool
3.For Ada
4.Nicolette
5.The Woodcocks
6.I Loves You Porgy
7.Everybody’s Song But My Own
8.In The Bleak Midwinter
ジョン・テイラー:John Taylor(p) (allmusic.comへリンクします)
パレ・ダニエルソン:Palle Danielsson(b)
マーティン・フランス:Martin France(ds)
2005年10月ドイツ録音