
ロンドン五輪で3大会連続金メダルに輝いたレスリング女子の伊調馨さん(28)と、アテネ、北京両五輪銀の千春さん(30)。同じ競技、しかも厳しい勝負の世界に生き、おまけに妹の方が成績がいい。複雑な思いに駆られることはなかったのか。千春さんは言う。
「ライバルと思ったことは一度もないですね。私の尊敬する選手が、妹なんです」
2人は幼い頃から「姉妹で金」の夢を追いかけてきたが、千春さんはアテネに続き、北京も決勝で敗れた。選手村に戻ると、馨さんはショックで食事がのどを通らず夜も眠れない様子で、翌日の彼女の決勝戦に向けて千春さんは「頑張れ」とも言えなかった。
「結局、何の言葉もかけないまま、ずっと隣にいました。一生懸命考えた言葉でも、相手にとってはつらい言葉となるかもしれない。そう思ったからです」
決勝戦の後、千春さんは、いったん競技から距離を置く意向を表明した。馨さんも「千春が辞めてしまったら、自分一人では目標がない」と、姉に引きずられるように、同様の考えを表明した。
「妹は妹で、ちゃんと考えてのことだと。考えないで言葉を発する人じゃないから」
姉妹でも言葉に気を使う。相手の言葉に隠された思いを想像する。それがきずなを強くしているのだろうか。
※AERA 2012年10月8日号