「右折直事故」は8割が右折側の過失とされる。道交法も基本は直進車優先だ。判決は「右折した被告の過失が圧倒的に重いことは明らか」としている。裁判では、直進した軽乗用車はブレーキを踏んだ形跡はなく時速は60キロ弱と認定されていた。そのくらいのスピードが出ていなければ約15メートル離れた園児たちに突っ込んでいなかった可能性が高い。法定速度は北側から交差点までが時速60キロで、そこから南が50キロになるという境界だった。
被害者側弁護団によれば、被害者の中から「直進車もスピードを出し過ぎている。無罪放免はおかしい。検察審査会にかけるべきだ」という声が出ていた。現場をよく通る弁護士会の会員も「あの交差点を60キロ近い速度で突っ切るのは考えられない。法定速度内だから可というのではない」と話しているという。
事故後、筆者は乗用車より視線が高く見通しの効く大型バイクでこの交差点を走って実験したが、対向側に右折車が並ぶ中では怖くて60キロ近いスピードはとても出せなかった。単なる直線路で対向車線の車が突然、右折したわけではなく交差点での事故だ。道交法に「交差点に入る時は減速せよ」とは書かれていないが交差点は何が起きるかわからない。
当時、現場を検証した香川県在住の交通事故鑑定人石川和夫氏は「現場は地形的に高低があり、双方ともに交差点に入らないと相手が分かりにくく、スピードを出せる場所ではない。刑事事件として検察は起訴した被告の過失だけを追及してゆくため直進車の責任は問われなかったが、十分に安全確認したかは疑問。今後、民事裁判になれば直進車も応分の責任を問われるのでは」と見る。
亡くなった伊藤雅宮ちゃん(当時2)の父親は意見陳述で「直進車に非があるなどというのは、事故を他人のせいにしている」と新谷被告への怒りをあらわにしていた。一義的には右折した新立被告の責任である。とはいえ、「交通事故は双方の過失が重なった時、大津の事故のような大事故になりやすい」(石川氏)ことも事実。現場を実際に走ってみて、直進車がもう少しスピードを落としていれば、という思いも残る。大阪高裁が踏み込んで交差点での悲しい事故を防ぐ問題提起をしてほしい。
ジャーナリスト・粟野仁雄
*週刊朝日オンライン限定記事