指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第9回は「選手の調子をそろえること」について。
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五輪を目指す私のチームは2月21日から約1カ月間、スペイン・グラナダに近いシエラネバダの標高2300メートルにある国立トレーニング施設で合宿を行ってます。五輪代表選考会を兼ねた4月の日本選手権に向けてもう一段高いレベルの泳ぎを目指します。
4年前の同じ時期もここで合宿をしました。右ひじを骨折して前年夏の世界選手権を欠場した萩野公介は、5回目の五輪を目指した北島康介らとともに厳しい練習をこなして、リオデジャネイロ五輪400メートル個人メドレー金メダルへ向けた飛躍の土台を作りました。
選考会前の大事な合宿に入るとき、「選手の調子をそろえる」ことを心掛けてきました。一緒に練習する仲間が刺激を与え合うことで全体のレベルが上がっていきます。水泳は個人競技ですが、チームで練習するメリットは大きいのです。
ちょうど1年前、不振から一時休養して日本選手権を欠場した萩野は、昨年夏からレースに復帰して調子を戻してきました。しかし、年末年始の合宿を乗り越えて、これからさらに強度の高い練習に挑むというとき、体調を崩して練習を休む期間がありました。
復調のペースにブレーキがかかり、万全の状態で出場できなかった2月15、16日のコナミオープンでは、初日の400メートル個人メドレーは4分20秒42で4位。自己ベストの4分6秒05に少しでも近づく記録を出したかった大会で、昨年11月の東京都オープンのときより3秒56記録を落としてしまいました。
初日は大橋悠依の400メートル個人メドレー、青木玲緒樹(れおな)の200メートル平泳ぎもしゃきっとしていなかった。
初日の結果を見て、普段の練習から私のチームで足りないものをひしひしと感じました。選手の調子を合わせるという以前に意識や目標の足並みをそろえることができていなかった。ある選手はもっと前に進ませなければいけない。別の選手は手を引っ張ってあげる必要がある。個別対応に追われて、チーム全体の「進行速度」を上げることができていない現状がはっきりと出た1日目でした。