

自分の子育てに後悔のない人間など、いないだろう。作家として、そして母親として生きてきた96歳の佐藤愛子さんと、女優として、そして母親として生きてきた78歳の三田佳子さんが自らの子育てを振り返る。子育てとは、親子の葛藤と闘いの歴史なのである。
【前編/佐藤愛子×三田佳子「子育てに“正解”などあるものか」】より続く
* * *
佐藤:息子さんの最初の覚せい剤事件のとき、三田さんがインタビューに答えていらしたのを、私はたまたまテレビで見たんです。そのインタビュアーがまあ無礼で上から目線で偉そうなんですよ。でもそのときの三田さんの応対が実に冷静で、表情が変わることなく、謙虚でびっくりしました。この人は、たいした人だなと感動したんです。
三田:それを雑誌の連載にも書いてくださいましたね。私、とても嬉しかったです。もう20年以上前ですね。息子はあのとき18歳。「彼は未成年だから詳しいことはお話しすべきではない」と弁護士の先生に注意されて会見に臨んだところ、それが自分の子どもをかばう見当違いの発言と受け取られてしまいました。
佐藤:とにかくかさにかかるんですよね。あの連中は。
三田:「理想の母親」という女優・三田佳子のイメージとの落差が激しかったせいもあったかもしれません。私たちは親子そろって大バカだと非難されて。家の上にはヘリコプターまで飛んでいたんですよ。
佐藤:なぜヘリコプター?
三田:私の自宅を撮影するためでしょう。
佐藤:そういう騒ぎになるまで、何も気がつかなかったわけですか?
三田:いろいろなお友達が来ていることは知っていました。ただ、そんな現実があるとは思いもしなかった。
佐藤:もし三田さんが女優さんではなく、普通のおかあさんだったら起こらなかった事件だと思いますか?
三田:……どうでしょうか。
佐藤:確かに、学校から帰ってきたら「おかえりなさい」と出迎えて、おやつの用意をしてあげてというおかあさんがいれば、息子さんも家をたまり場にするようなお友達を呼ばなかったかもしれないわね。