こうした県庁所在地は、ほどほどの生活を求める人に魅力的かもしれない。都市から離れた田舎に比べれば、不便さや濃厚な人間関係に悩まされることも少ないだろう。都市生活を送りながらも、豊かな自然が身近にあり、ゆったりと過ごして、趣味などにも打ち込むことができる。とりわけ、年金生活のシニア層にとっては一定の収入があり、生活費の水準で生活のゆとりが違ってくる。
東京などで働く世代の人たちにとっても、地方の県庁所在地に移り住むメリットはある。東京から移り住めれば生活費が安くなることが少なくないほか、仕事のやりがい、生活面の充実感も得られることがある。
最近はどこも人手不足が顕著で、人材は東京に集まりがち。そんな時代に、福岡で人材を必要とする地元企業に対して、東京で働いている人を紹介するのがYOUTURN(福岡市)。17年に支援を開始した中村義之代表は、地元企業が必要としても採用できない職種があり、人材が東京にかたよっていると話す。
「地元の大企業が新規事業を起こす際に、特別の経験を持った人は東京に多くいます。また、福岡はスタートアップ(起業)が多いのですが、エンジニアが地元になかなかいません。さらに、会社の規模が大きくなり、会計や人事など本社機能の職種が必要になっても、地元の中途採用市場に人材があまり流通しておらず、東京にアクセスするしかありません」
こうした転職は「移住」を伴う。中村さんの会社に登録する人材は、半数くらいが福岡出身者で、残りは佐賀県など近隣出身者や配偶者が福岡出身のこともあるが、1割くらいは夫婦とも福岡とのつながりがない人もいるという。
移住した転職者については、
「東京に必ずしもネガティブではなく、より良い生活を求めている人が多い」
と中村さんは話している。
移住した転職者たちと毎月懇親会をしている中村さんによると、福岡は住みやすく、移住した転職者は自分が求められた会社で仕事を通じてやりがいや満足感も得られているという。
こうした福岡の地元企業が求めるような職種・人材は、
「地元企業が中途採用をしていないところも多く、ニーズになるほど顕在化もしていない」
と中村さんは指摘する。
これは福岡に限った話でなく、地方都市の多くが抱えている課題でもありそうだ。
東京などで就業してきた経験が、県庁所在地ならば生かせる可能性がある。生活費も安く、自然にも恵まれた新天地で、やりがいや生きがいを見つけ出したくなる人が今後増えてくるかもしれない。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2020年2月14日号