「私は小さな頃から捨てられている犬や猫を拾っては家に連れて帰って育てるということをしていました。一番多いときは犬や猫が全部で16匹もいたんです。だから動物がいるのは当たり前の生活をしていました」と田中美奈子さん。
動物に囲まれた生活をしていたが、結婚・出産で一時期中断する。そして子どもが幼稚園に通い始めたこともあり、そろそろ犬を飼おうと考えた。
「保護犬を探したのですが、大きい犬ばかりで、子どもや一緒に暮らしている義父母が散歩に連れていけないため、泣く泣く断念しました。それでふとショップに行ったら、この子がいたんです」
そのときはかわいいなと思いつつスルー。また別の日にショップを覗くとまだいて再会を果たした。
「娘がある日、あのワンちゃんがいる隣のカフェに行きたいと言いだしたんです。あの子に会いに行きたいのだなと確信しました」
もしまだいたら縁だと考え、飼うことに決めていた。そうしたら案の定、売れ残っていた。これは運命である。そうして、田中家の一員になった。
名前はミルクで3歳の男の子。ポメラニアンとチワワのミックスで、血統書がないことが、残っていた要因かもしれない。
「うちに来たときは4カ月くらいで、もう3年近くうちにいることになりますね」
見た目は小さくてかわいいが、家では誰か知らない人が来ると知らせてくれる番犬の役割をしっかり果たしている。それでいて人なつこくて、味方だと認識するとすっかり甘えてくる。
「ミルクはおじいちゃんを大好きで、どこにもついていきます。外出すると門の前で待っていたり、トイレに行ってもドアの前で待っていたりします。みんな忠犬ミルクって呼んでいます。息子とはどっちが犬かわからないくらいにじゃれあっていますね」
田中さんは長年、elf(エルフ)というNPOで動物の保護活動をしている。そして将来は動物たちが安心して暮らせる動物アイランドをつくりたいと考えている。
「ただ保護するだけじゃなく、夏休みなど1週間泊まり込んで動物のお世話やトレーニングを体験したり、また家族共に暮らす犬や猫を連れてくることもできたりする施設を作りたいです」
大きな夢であるが、一匹の犬を救えないと多くの動物を救えないと考えている。
「そのためにまずは目の前の一匹のミルクとの楽しい生活からですね」
(文/本誌・鮎川哲也、吉川明子)
※週刊朝日 2020年2月14日号