カヌーの栄冠は、これまで欧州勢が独占していた。この“常識”を覆したのが、2016年リオデジャネイロ五輪で銅メダルを取った羽根田卓也(32)だ。アジア人として初めての表彰台だった。10月に行われたNHK杯国際競技大会でも日本人トップの3位になり、東京五輪代表の座を射止めた。自国開催となる4回目の五輪では金メダル獲得の期待が寄せられる。
常識破りの躍進を支えているのは練習量である。練習拠点を本場のスロバキアに置き、水が冷たくなる冬にはオーストラリアで練習に明け暮れる。「練習はキツい。でもツラいと思ったことはない」という羽根田には「今日できなかったことでも、反復して練習すれば必ずできるようになる」という信念がある。
高校卒業後、カヌー強国のスロバキアに単身で渡り、言葉も不自由な環境に挫けることなく、ひたすら腕を磨いた。この体験が「練習は裏切らない」という信念を生んだのだ。
「生半可なやさしい壁ではなかった。でも、無理だろうと思えるような壁を乗り越えた。そのスロバキアでの体験があるから、僕は、壁は必ず越えられると考えているんです」
リオ五輪後は、東京で結果を出すためにスピードの強化に努めた。筋力強化により理想的な身体を手に入れ、水をかくパドルの長さや座る位置を変えるなど、さらなる進化を求めてベストを追求してきた。こうした努力を、羽根田は「自分の仕事」と捉えてこう言う。
「打算を考えずに仕事をまっとうする人を、僕はカッコいいと思う。自分でもそうありたい。皆さんの思いに応えるのが僕の仕事。だからひたすら練習するんです」
本番までは練習一筋を誓う羽根田には、五輪後にやりたいことが一つある。
「五輪で結果を出せたら、日本を行脚したい。いろんな人に会って、応援してくれたことにお礼をする旅。これまで練習優先でできなかった、いろいろな体験をしたい」
(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日 2020年1月3‐10日合併号