落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ゆく年くる年」。
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「令和」にいまだに馴染めずにいる。8カ月だもの、当たり前か。「令和」ってまだ上手く書けない。バランスむず。特に「令」。お前はたいがい熟語の下に付く漢字だろう? なに上に来ちゃってんだよ。「マ」の最後の一画、点なのか、縦棒なのか、ハッキリしてよ。だから領収書の日付欄も「2019年~」って書いちゃってた。すまんな、「令和」。でもね、オレも頑張るから「令和」からもうちょっと近づいてきてくれてもいーんじゃない?
こないだ「令和」を思いきって「一杯どう?」って誘ってみた。「令和」は「……あー、はー、ありがとうございます」と俯くのみ。こいつ、行きたくないのが丸わかり。令和「……明日、ちょっと早くて」私「どこ? 地方?」。聞かなくてもいいのに聞いてしまう私。令和「すいません。11時から川越で学校寄席なんで」……ちっとも早くねぇ。それに川越は「地方」じゃねえよ。こういう後輩みたいなヤツです、「令和」って。今年の漢字になって少々テングです「令和」。
まれに付き合ってくれても開口一番、「あー、庶民的な店だなー。リーズナブルでいいなー!」と、通る声で独り言つ「令和」。私がご馳走するのにね……。「唐揚げとポテトフライと……(店を眺めて)生ものは、やめといたほうがいいかなあー」。どういう意味だよ! 大人数で行くとほぼ知らないうちに黙ってドロンしてる「令和」。私「令和、どーしたー?」A「あー、さっき帰りましたよ。『一之輔兄さん、酔っ払ってるからわかんないよな』とか言って」。なんだそら「令和」。
50分くらい経つと「ボクの悪口言ってませんでした?」と、いきなり戻ってくる「令和」。私「何やってたんだよ!?」令和「はす向かいのサイゼリヤでネタをノートに起こしてました」私「よくそんなこと出来るな、飲み会の途中で抜け出して!」令和「いやボク、飲んでなかったし」。そういうことじゃないって「令和」。