(c)榎本まみ
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 新卒で督促業界に入ったOLが、毎日、怒鳴られ、脅されながら、年間2000億円の債権を回収するまでを描き15万部のベストセラーとなった「督促OL修行日記」(文藝春秋刊)。その後も都内のコールセンターに身をひそめ、スキルと経験を積んでパワーアップした督促OLがクレーマー、カスハラ(カスタマー・ハラスメント)に逆襲する術を伝授する。
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 ある時、まだ電話も取っていない研修中の新人オペレータが休憩室でぐったりとしているのを見かけたことがある。

 疲れているのかな? と気にかかったが、その時はあまり面識もなかったので見過ごしてしまった。するとそのオペレータは着台(実際に電話を取る業務をすること)を待たず辞めてしまった。

 それから同様のことが何度かあった。コールセンターは離職率が高い職場ではあるが、実際に電話を取っていないのにこんなに頻繁に新人さんが辞めてしまうというのはおかしい。そこで新人オペレータを捕まえてそれとなく聞いてみると「A社員のロールプレイングが厳しい」と言い淀みながら教えてくれた。

 ロールプレイングとはコールセンターで行われる模擬の電話対応のことだ。片方がお客様役、片方がオペレータ役になって電話対応のシミュレーションを行う。一通り座学でマニュアルを覚えた後は、ロールプレイングを繰り返し練習するのがコールセンターでは一般的な研修の流れだ。そしてお客様役は電話に慣れている先輩オペレータや社員が務めることが多い。

 私は問題のA社員のロールプレイングにこっそり聞き耳を立ててみた。そして、その内容を聞いて驚いた。A社員は自分がクレーマーの役をやるから、と新人オペレータに対してクレームのロールプレイングをしていたのだ。

「おい電話が繋がらないんだけど、どうなってるんだよぉ?」

「……も、申し訳ございません……」

「ちょっとオタクの商品全然使えないんだけどどうしてくれるんだよ!!」

「え……、えっと……」

 ねちねちねちねちという言葉がぴったりのしつこさで、そして時には恫喝さえ交えて、A社員はオペレータを追いつめていく。

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新人が辞めた理由は?