現在、わが家にいるはおでんという名前です。名前の由来は人に言うほどのものではないです。語感がいいのでおでんです。この子は事務所の2匹と姉妹ですが、事故に遭って、病弱だったのでわが家に引き取ったのです。三姉妹の母猫は野良で、いつも来ていたやはり野良が夫猫で、子供を産む時だけ部屋の中に這入ってきて、乳離れの時期が終わるとサッサと母猫は再び野良に戻りました。その間、子猫の父猫は病気で野たれ死にしました。

 猫は帰巣本能があって、おでんは事務所と自宅が目と鼻の先なので、元いた事務所に戻るのではないかと心配したのですが、一向に戻ろうとはしません。事故に遭った時、首にラッパのようなものを付けられたり、全身包帯のグルグル巻きで透明人間みたいだったので2匹の姉妹に変な奴としていじめられたせいでしょうか、それとも帰巣本能を失ったのか、事務所には戻りません。事故で頭を打ったりしたので、少しアホ猫になり、雨の日は家の中、所かまわずオシッコをするのが困りものです。これもわれわれに与えられた試練かと思うしかありません。

 その点、死んだタマは天才肌の猫で、読心術に長(た)けていました。人間の文化より猫の方が文明的です。今日は余計な話をしてしまいました。ニャンちゃって。

■瀬戸内寂聴「黒猫のマル、誰より早く私を出迎えた」

 ヨコオさん

 急に寒くなりましたね。風邪などひいていませんか。私は日々老いが増し、ヨコオさんの猫のように、終日ベッドに横になっています、と言いたいけれど、ものを書くのは、寝ては書けないので、ベッドに腰かけ、わき机をひきよせて書いています。

 そんなに仕事するな、みっともないぞと、ヨコオさんに叱られそうだけれど、私は、書くのが本来大好きなので、書かない生活なんて考えられないのです。

 先日も、『群像』の新年号に、小説二十七枚も書いてしまいました。

 勢いが乗ったので、ついつい、徹夜をしてしまいました。年のせいで、その後がこたえます。当たり前ですよね。

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