
ニューオーリンズの象徴的存在がジャズに取り組む
The Bright Mississippi / Allen Toussaint
ソウル/ファンク・ミュージックの作・編曲家、プロデューサー、ピアニスト&シンガーとして活躍する、米ニューオーリンズの象徴的存在がアラン・トゥーサンだ。2006年にはエルヴィス・コステロとのダブル・リーダー作『ザ・リヴァー・イン・リヴァース』が話題を呼び、同年に品川教会で行われたプロモ・ライヴも個人的には記憶に新しい(中島美嘉と共演!)。そんなトゥーサンが今回ジャズ・プロジェクトに取り組んだことは、従来からのファンには驚きをもたらしたはず。逆に今までトゥーサンを積極的に聴いていなかったジャズ者には、その魅力を知るための良いきっかけとなること間違いなしの新作である。
制作のきっかけは2005年のレコーディング・セッションで、プロデューサー、ジョー・ヘンリーが知られざるトゥーサンの才能を発見、それまでの長いキャリアで向かうことのなかったコンセプト・アルバムを企画したことだった。セロニアス・モンクのナンバーを取り上げてアルバム名に冠し、デューク・エリントン、ジャンゴ・ラインハルト、シドニー・ベシェ、キング・オリヴァーといったオールド・ジャズ・ナンバーをカヴァーするプログラムは、すこぶる魅力的だ。
何しろトゥーサンが自然に身につけていた音楽性だから、演奏の説得力は大きすぎるほど。さらに本作のために招かれたメンバーが、ジャズ・ファン心をくすぐる。ニューオーリンズ出身のニコラス・ペイトンは相応の人選で、そこに改革派のドン・バイロンとジャンルレスなマーク・リボーが基本バンドを編成。これだけでも異色感は十分だが、そこに1曲ずつブラッド・メルドーとジョシュア・レッドマンがゲストで参加する。
以上リボー以外の全員がノンサッチ所縁のアーティストである事実は、本作のレーベル・メイトが協力した構図と言えるわけだが、しかし見逃せないのはベテランではなく新世代を起用したことだ。肝心の音楽は小細工を施さず、自己のスタイルを貫いた素朴さに激しく共感。
モンク曲#9はテンポを落としたニューオーリンズ・スタイルで、トゥーサンの真骨頂を聴く。ボーナス・トラックを除く#12までの本編に、4曲のデュオを点在させた“仕掛け”も留意すべき。中でもメルドーとのピアノ・デュオ#5は、トゥーサンの流儀に応じたことにより、メルドーの新味が披露される格好となって、ファン必聴。ニューオーリンズがジャズ発祥の地である歴史を踏まえれば、本作の意義をより深く理解できるだろう。
【収録曲一覧】
1. Egyptian Fantasy
2. Dear Old Southland
3. St.James Infirmary
4. Singin’ The Blues
5. Winin’ Boy Blues
6. West End Blues
7. Blue Drag
8. Just A Closer Walk With Thee
9. Bright Mississippi
10. Day Dream
11. Long,Long Journey
12. Solitude
13. That’s My Home
14. The Old Rugged Cross
アラン・トゥーサン:Allen Toussaint(p,vo) (allmusic.comへリンクします)
ドン・バイロン:Don Byron(cl)
ニコラス・ペイトン:Nicholas Payton(tp)
マーク・リボー:Marc Ribot(g)
デヴィッド・ピルッチ:David Piltch(b)
ジェイ・ベルローズ:Jay Bellrose(ds,per)
ブラッド・メルドー:Brad Mehldau(p)
ジョシュア・レッドマン:Joshua Redman(ts)
2008年3月NY録音