ライヴ・アット・ジャズ・スタンダード/フレッド・ハーシュ
ライヴ・アット・ジャズ・スタンダード/フレッド・ハーシュ写真・図版(1枚目)| 『ライヴ・アット・ジャズ・スタンダード/フレッド・ハーシュ』
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ポケット・オーケストラと名付けられた素晴らしいユニット
Live At Jazz Standard / Fred Hersch

 フレッド・ハーシュのライヴといえば、思い出すのが2007年9月のソロ・コンサート。15年ぶりに実現した来日公演は、ぼくにとって長年のアイドルを初めて生で観た機会ということもあり、深い感銘を受けたのだった。数多くのアルバムで知っていたピアノ・サウンドの美しさは、ライヴ会場でもイメージの誤差がなかった。しかしハーシュは過去の実績に安住するタイプのピアニストではない。

 本作はポケット・オーケストラと名付けたカルテットによる演奏で、これがそのお披露目となる。編成を見て最初に気づくのは、ベースレスであること。クリス・ポッターの近年作を想起するわけだが、エレクトリック・バンドではない点でコンセプトが異なることは明らか。あくまでアコースティックでの表現領域の探求である。#1を聴いてわかるのは、ハーシュの左手が右手の補助というよりもバンド・サウンドのベース・ラインとして機能し、全体として軽やかさを生み出している効果。これこそが編成の狙いに違いない。器楽的歌唱を含めた女性ヴォーカルの起用は、過去作で19世紀米詩人にインスパイアされた音作りの実績を踏まえれば、その延長としてアダプトした新展開だと言えよう。

 チャーリー・ヘイデンに捧げた#2のヴォイス+ピアノ+トランペットのアンサンブルは、まさに詩的な表現を個性とするハーシュの持ち味を発揮。

 ダウン・トゥ・アースなプレイにピアニストとしての広さを感じさせるビル・フリゼール・オマージュ曲#5、トリスターノ流メロディ・ラインでリー・コニッツに敬意を表する#7、エグベルト・ジスモンチ曲に触発された楽想のピアノ&スキャットが新鮮な#9。

 ハーシュ&ローリーのデュオ#10はノーマ・ウインストン作詞の重要レパートリーを美しく響かせ、ハーシュのワン&オンリーな音楽性を浮き彫りにする。コンパクトなアンサンブルという意味合いと思われるポケット・オーケストラ。ハーシュはまた新しく素晴らしいユニットを獲得したのだ。

【収録曲一覧】
1. Stuttering
2. Child’s Song
3. Song Without Words #4: Duet
4. Light Years
5. Down Home
6. Invitation To The Dance (Sarabande)
7. Lee’s Dream
8. Canzona
9. Free Flying
10. A Wish (Valentine)

フレッド・ハーシュ:Fred Hersch(p) (allmusic.comへリンクします)
ラルフ・アレッシ:Ralph Alessi(tp)
リッチー・バーシェイ:Richie Barchay(ds)
ジョー・ローリー:Jo Lawry(vo)

2008年5月ニューヨーク録音

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