音楽家としての底知れぬ才能を体感
Saudacoes / Egberto Gismonti
エグベルト・ジスモンチ・ファンにとって、一昨年から昨年にかけての急展開は、長年の空白感覚を一気に埋めた格好となり、数多くのマイブームが各地で勃発したことが想像に難くない。16年ぶりの来日公演となったのが2007年の単独ホール出演。ぼくを含めて、これが初めての生ジスモンチという観客が少なくなかった中で、予想以上の深い感動を与えてくれたステージは、個人的には同年度最高のライヴであった。
話題性豊かな新作である。ジスモンチが世界的な名声を高める上で最大級の貢献を果たしてきたECMからの、実に12年ぶりとなるリリース。待望の本作は2枚組の体裁で、ECMで言えば『サンフォーナ』以来四半世紀ぶりとなるヴォリュームだ。これだけでもジスモンチの満を持した創作発表の意欲が伝わってくるが、そこにはインターバルを埋めるための特別なアルバム・コンセプトが存在する。
ディスク1は「人種混合への賛辞」と題した組曲で、ブラジルの文化、歴史、街並み等をモチーフとした約70分間の作品。キューバの女性弦楽アンサンブル=カメラータ・ロメウの演奏にジスモンチは加わっておらず、ここでは作曲家ジスモンチの魅力を浮き彫りにする構成だ。
ファンのお待ちかねはむしろ、ディスク2だろう。ジスモンチの実息アレキサンドルとのギター・デュオ。本作が初お目見えとなる。この時点で「親の七光り」と思う向きがあるかもしれないが、それは作品を聴いてから判断してほしいと言いたい。アレキサンドルは#7のソリッドで緊張感を湛えたプレイでも明らかなように、「ジスモンチが新たな好パートナーを得た」という文脈で評価されるべきだと思う。
本年9月には3年連続となる2夜の来日コンサートが決定している。「ギター・デイ」と「ピアノ・ナイト」はそれぞれソロとオーケストラの共演によるステージだ。本作は前者のための格好の予習テキストになるはず。音楽家としての底知れぬ才能を体感する力作だ。
【収録曲一覧】
Disc 1: Sertoes Veredas ? tribute to miscegenation
1~7. Sertoes Veredas I~VII
Disc 2: Guitar Duets
1.Lundu
2.Mestico & Caboclo
3.Dois Violoes
4.Palhaco
5.Danca dos Escravos
6.Chora Antonio
7.Zig Zag
8.Carmen
9.Aguas & Danca
10.Saudacoes
エグベルト・ジスモンチ:Egberto Gismonti(g) (allmusic.comへリンクします)
アレキサンドル・ジスモンチ:Alexandre Gismonti(g)
ゼナイダ・ロメウ:Zenaida Romeu(cond)
カメラータ・ロメウ:Camerata Romeu(string ensemble)
2006年ハヴァナ、2007年リオデジャネイロ録音