『After the Gold Rush』
『After the Gold Rush』
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 ニール・ヤングの最高傑作は? 古くからの信奉者の答は、『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』と『ハーヴェスト』に、ほぼ二分されるはずだ。参考までに紹介しておくと、米ローリングストーン誌が2003年に編んだ名盤500にニール作品は5枚選ばれていて、『ゴールド・ラッシュ』が最高位の71位、『ハーヴェスト』が次点の78位。筆者の友人のあいだでも、前者がやや優勢。僅差ではあるが、つまり、ソラリゼーションのジャケットも印象的なあのアルバムこそが、ニールの最高傑作ということになるだろう。

 ニールのソロ3作目『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』は、70年夏に発表されている。『デジャ・ヴ』の発売直後のことだった。レコーディングもほぼ並行して行なわれている。関係者の商業的な思惑はともかくとして、状況も創作意欲も、まさにピークに達していた時期の作品であったわけだ。

 ただし、すべてが順調に進んだわけではない。前作『エヴリバディ・ノウズ・ディス・イズ・ノーホエア』の流れで、クレイジー・ホースと録音を開始したものの、中心人物だったダニー・ホイットゥンのドラッグ依存が許容レベルを超えてしまったため、いったん中断。その後、ジャック・ニッチェや、当時まだ18歳の若さだったニルス・ロフグレンらを迎えて、完成させたのだった。

 だが、結果的に、このことが『ゴールド・ラッシュ』に独特の色彩を与えたようだ。マーティン弾き語りの「テル・ミー・ホワイ」、Dモーダル・チューニングの「ドント・レット・イット・ブリング・ユー・ダウン」、ピアノとフリューゲル・ホーンだけをバックにじっくりと歌い上げるタイトル曲、ひたすら美しい「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」、そして、クレイジー・ホースのパワーを最大限に生かした「サザン・マン」と、適切な表現ではないかもしれないが、じつにバラエティに富んでいる。背景には同名映画からの強い刺激があったそうで、各面の最後に1分半前後の小品を据えるといった映画的構成がとられていたことも指摘しておこう。

 見開きジャケットの内側は、マーティンやレスポール、グレッチのケースなどがさり気なく並べられた写真。右端には美しい女性。『ゴールド・ラッシュ』は、若いファンに憧れと嫉妬の想いを抱かせるアルバムでもあった。[次回5/20(月)更新予定]

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