作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は医大入試の女性差別について。
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医大の差別入試発覚から1年以上が経った。訴訟が様々な形でおこり始めてはいるが、被害の大きさを考えれば、一握りのなかの、さらに一握りが声をあげているのが現実だ。医大とは、学びの場がそのまま将来の職場や人間関係とつながっている特殊な世界。たとえ自分が被害にあっても、目をつむることを選ぶ人が大多数なのだろう。
今、平成30年度に筑波大学医学部(医学群医学類)を受けた女性の親御さんとやりとりをしている。娘さんは現役で受験し、自己採点で合格を確信したが不合格だった。点数開示を求めたところ、面接点が最低点で、数点の差で合格ラインに届いていなかった。
面接は10分で、なごやかにすすんだという。趣味が同じだということで、面接官の男性医師と話も弾んだ。他人と目を合わせられないわけでも、まして奇妙な行為をしたわけでもない。
彼女が東京医大の性差別入試のニュースを知ったのは、浪人中だった。もしかして自分も……という思いもあったが、つらすぎて事件を直視できず、忘れようと決めた。
去年、文科省が調査した結果によれば、筑波大学は平成30年度の試験で、男女の合格率に1.7倍の差が出た。これは他の国公立大と比べても突出している。
医学部受験は、めぐまれた家庭の子どもばかりがするわけではない。現にこの女性は、地方の県立高校出身で、親族に医師はおらず、年間数百万の私大の学費を簡単に払える環境にはない。国公立大進学だけが、唯一の選択肢だった。命を削るように勉強し、学力で結果を出しても、10分の面接で判断される過酷な現実に、医学部進学を結局諦めた。
この受験生や家族は、筑波大を糾弾したいわけではない。ただ、事実を知りたいのだ。男子は3人に1人の合格率、女子は5人に1人以下の合格率は、偶然というには、不自然だ。どのような基準で面接するのか。男女差がこれほど大きい理由は何か。