しかし、なぜ脳が原因で見え方に問題が生じてしまうのか。そのメカニズムについて、若倉さんは次のように説明する。
私たちは日ごろ、何も意識せずモノを見ているが、この「見る」という行為は眼球だけで行われているわけではない。目から入った光や色、形、動きなどの視覚情報は、眼球の奥にある網膜に映し出された後、視床領域の一部である外側膝状体に届く。そして、そこで別の神経細胞に引き継がれ、後頭葉の第一次視覚野にたどり着く。
「実は、この段階でも視覚情報は電気信号として脳に伝わっただけであって、モノを『見る』というところには至っていません。第一次視覚野に入った視覚情報は、頭頂葉や側頭葉で他の情報や記憶などと結びついて、前頭葉に伝わり、そこで初めてモノとして認識され『見る』という行為につながるのです」
この際、入ってきた視覚情報が脳の許容量を超えないように、視床などではフィルターをかけて必要な情報だけ送っていると考えられている。
「モノを『見る』ために行われる脳の作業はとても複雑なので、脳の神経回路のどこかに問題が起こってしまうと、それだけで、見るという行為に影響が出てしまう。例えば、フィルターの部分に問題が生じれば、情報が選別されないまま先に送られるので、ちらつきやざらつきといった“ノイズ”が発生しやすい」
眼瞼けいれんの患者数は、推定で20万~100万人。腫瘍や炎症などが原因になることもあるが、多くは脳の働きが悪くなる機能低下によるもの。そのため、MRIやCTなどの画像検査では見つけにくく、診断がむずかしい。
「眼科で診るのは、眼球や視力の異常。ですが、眼瞼けいれんの場合、たいてい眼球は健康で、視力もいい。そのため症状があるのにもかかわらず、“異常なし”と診断されやすいのです。脳外科や精神科、心療内科など多くの診療科を渡り歩く、いわゆるドクターショッピングを繰り返す方も少なくありません」
残念ながら、脳がなぜ誤作動を起こすのか、その原因はまだよくわかっていない。ただ、片頭痛の家系の人や、目の使いすぎやストレス、不眠などによる脳疲労が蓄積した人はなりやすい傾向があるそうだ。加齢の影響もあり、老眼で見る力が低下したことをきっかけに発症することもある。
眼瞼けいれんには根本治療はないが、症状をとる対症療法としてボトックス注射が健康保険で認められている。効果が続くのは3カ月~半年なので、定期的に打つことになる。サングラスや目の乾きを補う目薬なども有用だ。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2019年11月8日号より抜粋