ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回はペットのオカメインコ・マキについて。
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ひと月ほど前、オカメインコのマキの機嫌がわるくなった。朝からずっと、ジージー鳴いている。そんなときは腹が減っていて、「飯食わさんかい」の鳴き方なのだが、大好きな麻の実を口もとに持っていっても、つまんで捨ててしまう。これはおかしい──。ようやく気づいてようすを見ていたが、なにも食わないし、ほとんどフンもしていない。小鳥の食欲不振は危ないと、わたしは動転した。
「連れていこ、鳥病院」
よめはんにいって、段ボール箱にタオルを敷き、マキを入れた。わたしが運転し、よめはんが箱を膝において堺の動物病院へ走った。
診察室に入り、親切そうな女医さんに症状を話すと、彼女はマキのくちばしをあけて、「口内炎ですね」といい、口の中が充血しているといった。
「換羽期は栄養不足になりがちです。そこへ食べるものが偏っているとビタミン欠乏で口内炎になります」
この時期、けっこう多い症状だと女医さんがいったから、わたしはホッと胸をなでおろした。
マキのそ嚢(のう)に流動食と抗生物質を入れてもらい、飲み薬を処方してもらった。
それから一週間、二日おきにマキを動物病院へ連れていった。症状は日ごとに軽くなり、あとは経過観察ということで、通院は終了した。
マキは十四年前、我が家に来た。まだ羽根も生えそろっていない雛(ひな)だった。わたしが湯で柔らかくしたシードを食べさせ、昼はヒーターを入れたケージに入れ、夜はそばに布団を敷いて、マキを見ながら寝た。
そうして一冬を越すとマキは寒さに強くなったから、放し飼いにした。以来、ずっとわたしのそばにいる。わたしが起きるといっしょに起き、仕事をしてるあいだは、そばで寝ているか遊んでいる。トイレも風呂も肩にのってついて来る。わたしが出かけようとして服を着替えると、こいつはどこかへ行くにちがいない、と察知して、頭にのったまま動かない。「マキはお留守番やで」いって聞かせても離れない。隙を見て部屋を出ると、マキは“クーンクーン”と寂しそうに鳴くから、わたしはよめはんに「マキと遊んでやって」といって家を出る。